ほっかいどう学連続セミナー:第3回

上川の魅力を支えるもの再発見

令和3年1月23日(土)、当法人の中核的な活動の一つとして北海道各地区で開催する「ほっかいどう学連続セミナー」の第3回連続セミナー「上川の魅力を支えるもの再発見」が開催されました。新型コロナウィルス感染症拡大防止の観点から、初の完全オンラインでの開催となりましたが、教育関係者、社会資本整備関係者をはじめ、約50名の方にご参加いただき、グループセッションでは活発な意見交換が行われました。
(※文中の役職は開催日当時のものです。)

開会にあたり、主催者を代表して、新保元康理事長より開会の挨拶、原事務局長より、プログラム解説、趣旨説明などが述べられました。

1.開会挨拶・趣旨説明


特定非営利活動法人 ほっかいどう学推進フォーラム 理事長 新保元康
同 事務局長 原文宏

当法人の活動は2年目を迎え、現在250名を超える会員の皆さまに応援をいただき、シンポジウム、インフラツアー、連続セミナーと、活動を推進している。本日も北海道開発局、社会科教育連盟他、皆様のご協力により、このコロナ禍においても無事、開催することができ、感謝申し上げる。

当法人の活動は平成28年3月に閣議決定された第8期北海道総合開発計画の中に「ほっかいどう学」が定義されたことから始まる。その後、令和元年8月に法人登記され、活発に活動させていただいている。設立の目的は「北海道の魅力や地理、歴史、文化、産業等を「ほっかいどう学」として、子どもから大人まで幅広く学び、地域に関する理解と愛着を深める取組を促進すること」であり、活動内容は大きく4つある。その一つが本日のようなセミナーであり、地域を知る活動、そしてみんなが仲良くなる機会を、ということで、開催している。意見交換の時間も用意しているので、ぜひ、リラックスして参加していただきたい。

開会挨拶 新保元康理事長
趣旨説明 原文宏事務局長

続いて、一法師隆充 氏(国土交通省北海道開発局旭川開発建設部次長)より、上川の新たな観光資源として注目を集める“青い池”の知られざる役割と価値について基調講演をいただきました。

2.基調講演 ”青い池”の秘密~注目を集める”青い池”その大きな役割とは~


一法師 隆充氏(国土交通省北海道開発局 旭川開発建設部 次長)

美瑛町白金地区にある「青い池」は、青い水面と白いカラマツとのコントラストの幻想的な風景が話題となり、2000年頃から口コミで広がり、2019年には推計100万人の入場者数を記録する人気の観光スポットとなった。この青い池はその形状からもわかるように、自然にできた池ではない、人工の施設である。

なぜ、このような施設が作られたのかが、本日のテーマである。話は大正15年(1926年)に遡る。この年の5月に十勝岳が大噴火し、死者・行方不明者数が144名に上る大惨事となった。大量の樹木が地面を覆い家屋や鉄道が破壊される、火山噴火の被害とは考えにくい当時の被災状況を記す貴重な写真が残っている。何故、これほどまでの被害になったのか。火山の噴火に伴い “融雪型火山泥流”が発生したためである。5月の十勝岳はまだ積雪が残っており、そこで大規模な噴火が発生し、高温の岩が雪を溶かして大規模な泥流となり、上富良野町、美瑛町に流れ下ったのである。

十勝岳は地質調査などにより3500年くらい前から頻繁に噴火活動があったと考えられている。最も古い記録は1857年、以後30~40年サイクルで噴火活動が確認されており、1963年に北海道が、1986年には北海道開発局が火山砂防事業に着手している。

火山砂防施設の仕組みは、火山泥流の勢いと量を上流から段階的に低減させ、残った泥流を安全に流下させるものである。青い池は、実はこれら火山砂防施設群の一つ「ブロック堰堤」だったのである。ブロック堰堤も、泥流の勢いと量を低減するための砂防施設であり、そこに偶然美瑛川の水が貯まり青い池と呼ばれるようになった。

このように、防災施設として誕生した青い池は、図らずも、観光資源という新しい価値をうみだし、地域のために役立っている。そして、青い池のもう一つの役割として、大正時代に起きた融雪型火山泥流による被害の記憶を風化させずに未来に繋いでいくことに期待している。過去の災害の経験や記憶が、人々の命を守る行動につながる。青い池をきっかけに大正時代の泥流被害を思い出すことが、防災教育に、そして、人々の防災意識につながっていくと思う。

一法師 隆充 氏

続いて、基調講演を受けて参加者がグループに分かれて、フリーディスカッションを行いました。

3.わいわい意見交換タイム


意見交換タイム終了後、グループのリーダーから話題の一部を全体に共有していただきました。

グループ1:偶然の副産物ということを教えていただいたが、知らない方がロマンを感じるかも、といった意見も出された。一方で、このようにインフラに価値づけをしていくかという営みは、いろいろな可能性がある北海道に生かせるのではないか。

グループ2:非常に良い題材で、子どもたちに如何に伝えるか、ということが話題になった。わかりやすいビジュアル的な資料があれば、子どもたちにも伝わる。開発の関係者からも防災関連の資料提供について協力いただけるとのことだった。

グループ5:美瑛町ではカリキュラムですべての学校が青い池を訪れるということを聞き、よい活用の仕方をしていると思う。また、素朴な疑問として、なぜ青いのか、という話題になった。

続いて、旭川市立神楽岡小学校教諭 近田博信氏、ならびに、比布町立中央小学校教諭 大島慎吾氏・同教諭 吉澤康伸氏より、それぞれ授業実践報告をいただきました。

4.授業実践報告①
 「北海道の開拓を担った囚人の物語をどう学ぶか(小4)」


近田 博信 氏(旭川市立神楽岡小学校 教諭)

小学校4年生の「きょう土を開く」という単元(13時間)の中で実施した「道路をひらく」という授業実践(1時間)について、ご紹介したい。

副読本では、現在の三笠市(市来知)から旭川市(忠別太)までの90kmの道路が取り上げられており、看守の下で囚人が道路をつくっている様子がイラストで掲載されている。子どもたちは、いつ、だれが、どうやって道路を作ったか、ということを、副読本「あさひかわ」に加え、旭川教育委員会が作成した歴史まんが「旭川物語」を使って学習した。授業は、掲示物やスライドを使ったり、ホワイトボードで子どもたちの思考が見えるよう工夫しながら進めた。

授業の成果としては、囚人の苦労を子どもたちが共感的に理解できたこと、さらに、旭川の発展のために作られた「みち」の意義を理解できたことにあると考えている。一方で、囚人道路を学ぶ意義は大きいが、囚人たちの“思い”に対する根拠の弱さや、歴史的背景を捉える難しさなどの壁があり、4年生には難しいのではないか、という意見も挙がった。

この授業実践を踏まえた提言としては、GIGAスクール構想によって、一人一台PC端末が与えられ、容易に調べることができる環境整備が進められる。さらに、これからの社会科では、「主体的・対話的で深い学び」が求められている。そうした中、これからは、「わからないことは自ら調べる」、という子どもが増えていくのではないかと考えられる。そこで必要なのが「コンテンツ開発」である。いつでも調べられ、平易な文章で書かれていることで興味、理解が高まり、大人も一緒に学ぶことができる。地域学習のコンテンツ開発は、社会科学習の充実だけでなく、ほっかいどう学でも謡われている歴史的視点、現在、未来の北海道の可能性を探ることにつながるのではないか。

5.授業実践報告②
 「比布の大切なお祭り 先人の奮闘とその意味を探る(小4)」


大島 慎吾 氏(比布町立中央小学校教諭)
吉澤 康伸 氏(比布町立中央小学校教諭)

ほっかいどう学のHPを見て、自分たちの地域学習の目的と重なるところがあると感じた。特に、4年生の社会科の目標として学習指導要領に示されている「地域社会に対する誇りと愛情、地域社会の一員としての自覚を養う。」という部分は、地域学習の授業で最も大切にしているところであり、ほっかいどう学の狙いともまさに一致すると考えた。

授業のテーマは「自分たちにできること」である。授業は全22時間を使い、オリエンテーションに始まり、比布原野体験ツアー、開拓に携わった先人の歴史の学習、お祭りや文化財の保存継承の学習、最後に「自分たちにできること」を考えさせるというものだった。

授業開始当初は、比布町の歴史的な祭りである比布例大祭の祈り「郷土発展、町内平安、五穀豊穣、産業発展」の意味について、実感がわかない様子の子どもたちであったが、比布原野体験ツアーで、開拓者の苦労を実体験したり、開拓功労者の功績や町の発展の歴史を学び、さらに、文化財や郷土資料館見学を通じて祭りや文化財を保存継承する人々の思いに触れることで、121年続く例大祭の意味を理解することができた。授業では、さらに、祭りや文化財の保存継承を「自分ごと」として捉えさせるために、友達との意見交換や、宮司の考えから祭りの意味を考える取り組みを行った。その結果、「自分たちにできること」として、「何ができるか」という方法論だけでなく、「残していきたい」、「伝えていきたい」という情緒的な高まりも感じさせる様々な意見が出された。

このように地域の発展の歴史や先人の働きを学ぶことは、「地域社会の一員としての自覚を養うこと」や、「まちづくり・地域づくりに積極的に参画する人材育成」につながっていくものと考えらえる。

6.全体討議


最後の全体討議では、コンテンツ開発に関して活発な意見交換が行われました。

  • 総合学習で中央道路の授業を行ったときに、子どもが自分で調べられる資料がないことに気が付いた。偶然にも、地域に中央道路について詳しい方がいて、調べることができたが、教師自身も知らないまま教えていた部分があった。発表の提言にもあったとおり、子どもたちが自分たちで調べられるものがあれば、心に残るのではないか。
  • コンテンツ作りは、誰かに与えられるのではなく、学ぶ側の子どもも参加して、素材を持ち寄って良くしていく、というようなプロセスがあれば、実感が持ててよいのではないかと感じた。
  • 建設、教育、高校生などいろいろな組み合わせがあり得るし、色々な視点が入ることで幅も広がる。
  • 学校関係者は自分たちだけで完結しがちだが、建設関係の方などに協力していただくというのは大事である。
  • 歴史的史実は難しい部分がある。テーマによっては最終的に専門家が監修するという仕組みがあれば、教える側も安心できるのではないか。

7.まとめ


「青い池」が防災施設であることはぜひ、知っていただきたい。同時に、それが、偶然とはいえ、世界から100万人を呼び寄せる資産になったというドラマも大変面白い。北海道には、この青い池のように、道路、祭りはじめ、色々なドラマがあり、たくましく北の大地を切り開いてきたという歴史があるということを、子どもたちに胸を張って伝えていきたい。

セミナーを終えて

終了後の参加者アンケートでは「社会資本整備関係者と教育関係者等、色々な方々が繋がって学ぶことはとても大切。本当に面白い」、「非常に興味深い内容で有意義な時間となった。我々が住む地域をよく理解していくことが、まちづくりの担い手が地域に根付き、ひいては北海道のためになってゆく。ほっかいどう学はとても意義深く、今後ますます重要な役割を果たすのではないか。」といった、主催者として大変嬉しいご意見をいただくことができ、今後もこうした活動を全道各地で展開してまいりたいと、意を新たにした次第です。最後に、ご登壇者の皆さまはじめ、開催にご協力いただいた全ての関係者の皆様に改めて感謝申し上げます。