ほっかいどう学連続セミナー:第7回

渡島・檜山の魅力を支えるもの再発見

 令和4年12月10日(土)、当法人の中核的な活動の一つとして北海道各地区で開催する「ほっかいどう学連続セミナー」の第7回連続セミナー「渡島・檜山の魅力を支えるもの再発見」が開催されました。教育関係者、社会資本整備関係者をはじめ、約50名の方にご参加いただき、グループセッションでは活発な意見交換が行われました。
(※文中の役職は開催日当時のものです。)

1.開会挨拶・趣旨説明


特定非営利活動法人 ほっかいどう学推進フォーラム 理事長 新保 元康

本日は会場、オンラインでも多数ご参加いただき、感謝申し上げます。私たちは「北海道の子どもたちにもっと北海道を」というキャッチフレーズで、北海道の魅力とそれを支えている仕組みや人を学んでほしいという想いで活動をしています。学校は今、変革期にあり、小学生から一人1台PCを使って学習する時代になりました。様々な目的の下にスタートしたこのGIGAスクール構想ですが、学力の向上はもちろん、ICTを活用して地方をますます元気にしていく、ということが大事だと考えています。本日は渡島・檜山にあるたくさんのお宝を皆さんと一緒に学びたいと思います。最後までどうぞよろしくお願いいたします。

2.来賓挨拶


国土交通省 北海道開発局 函館開発建設部部長 岡下 淳 氏

ほっかいどう学連続セミナーは道内各地で開催されており、本日7回目を迎えるということで、心からお慶び申し上げます。

ほっかいどう学は地域に対する愛着・理解を深める活動によって北海道を支える人材づくりに貢献するものと考えています。函館開発建設部でも北海道の重要インフラである「道路」に着目し、渡島・檜山みち学習検討会を設置し、ほっかいどう学に一緒に取り組んでいます。また、北海道開発局は北海道教育委員会と連携協定を締結しています。この連携協定を踏まえ、開発局としても社会に開かれた教育を積極的に支援していきたいと考えています。

本日のセミナー開催にあたり、関係者の皆様ならびに参加者の皆様に敬意を表し、ほっかいどう学、皆様のご活躍を祈念して挨拶に代えさせていただきます。

3.発表

発表①「渡島・檜山の魅力を支える みちづくり」

国土交通省北海道開発局函館開発建設部 次長 畑山 朗 氏

本日は我々開発局の取組みをご紹介させていただきます。開発局の役割は国土交通省の支部局であり、河川・道路をはじめとする総合的な開発計画を推進する機関です。私の専門は道路なので、本日はその観点からお話させていただきます。

初めに、渡島・檜山の魅力といえば、本州と北海道を繋ぐ地域として日本で最も早く鎖国を解かれた港の一つであり、西洋建築、北前船の交易、歴史の古いまちという点があります。さらに、道立自然公園、五稜郭、函館の夜景などの観光スポットも豊富です。地理的に水産資源にも恵まれています。交通の面では、新幹線、空港、クルーズ船と、陸・海・空の交通の要所が函館周辺に備わっており、ポテンシャルがある地域です。

次に道路整備と効果についてです。25年前は国道5号線の渋滞が発生していましたが、高規格幹線道路の整備が進められ、函館新道、函館・江差自動車道、函館新外環状道路(空港道路)が開通しました。これにより函館ICに3つの幹線道路がつながったことになります。高速道路の整備効果は安全性の向上、時間短縮効果にとどまらず、観光地での滞在時間の伸び、新たな周遊ルート形成の可能性など観光活性化にも大きく寄与しています。また物流の効率化にも繋がっています。交通量にも変化がでています。空港道路が完成したことで、産業道路の渋滞解消に繋がっている他、抜け道になっていた生活道路の交通量が減り、交通事故の件数も減少しています。

最後にシーニックバイウェイ北海道の取組みをご紹介します。
「みち」をきっかけに地域と行政が連携して、美しい景観づくり、活力ある地域づくり、魅力ある観光空間づくりを進めています。全道に13のルートがあり、渡島・檜山には2ルートあります。後ほどご発表いただく折谷さんを中心とした「シーニックdeナイト」や、歴史・文化を活用した情報発信などの活動があります。シーニックバイウェイの最大の魅力は、活動自体もさることながら、活動している方々であると感じます。我々開発局はこうした地域の方々との活動や支援を通じて、「みちづくり」を進めています。

発表②「みんなでつくる「はこだて花かいどう」の“おもてなし19年”」

NPO法人スプリングボードユニティ21 理事長 折谷 久美子 氏

我々の団体は1999年に女性や市民が気軽にまちづくりに参加できることを目的に設立されました。きっかけは港祭りを盛り上げ地域貢献したいという想いでした。設立当初は寄付金で活動を続けていましたが、寄附が思うように集まらなくなり、寄付者から年間を通した活動を考えた方が良いのでは、とアドバイスを受け「お花の活動なら」ということで転換期を迎えました。

2003年に開催した「花と緑のシンポジウム」が行政の目に留まり、町会長さんとも話が盛り上がり、会の立ち上げ、NPO設立に至りました。函館新道も開通し、函館の玄関口を花いっぱいにしようと2004年から「函館花いっぱい道づくりの会」がスタート。現在は28団体で活動しています。地道に活動資金を集めながらスポーツ少年団や沿線の小中学生、地域町会の協力も得て活動を続けてきました。コロナ禍で一時活動が縮小していましたが、今年は子どもたちの姿も戻ってきました。

活動10年目に花に勢いがなくなったことを機に土壌に興味を持ち、NPOで地球環境基金に応募し採択されました。平成23年から4年間土壌調査を行い、多くの講師の協力を得て環境に配慮した堆肥づくりのための勉強会、フォーラム、セミナーを開催しました。その後、市内の中学生や講師と共に植栽によるCO2吸収量の試算やミミズマップの作成に取組みました。こうした環境教育活動が評価され、北海道教育庁から「平成23年度渡島管内教育実践表彰」を受けました。

活動10年目の植栽活動の参加者は1000人に上りました。平成26年には函館新外環状道路(空港道路)の全線開通を祈念して「花かいどうタイムカプセル」を実施し、令和3年10月の開通に合わせて開封しました。2006年からは「シーニックdeナイト」を実施しています。2016年には北海道新幹線開業を祈念して新幹線で到着した乗客を1000本の手作りキャンドルで歓迎しました。今年も函館新道でのシーニックdeナイトに向けて、高校生も一緒にキャンドルづくりを行いました。来年活動20周年を迎えます。これからも道南の魅力を楽しく、活動を通じて子どもたちに伝えたていきたいと考えています。

発表③「昔と今をつなぐ“江差町いにしえ夢開道”」

江差町歴まち商店街組合 監事 室谷 元男 氏

江差町は函館空港から2時間の距離にある港町です。かもめ島という天然の良港に恵まれ、江戸時代から明治にかけて「江差の五月は江戸にもない」と謳われたほど交易で栄えた町です。

今から30数年前に一人の青年が淡路島に復元された北前船を江差の港に浮かべたい、と発案し、日本海を50日間かけて北上させるという大イベントを行いました。寄港地の人出は120万人に上りました。これが、身近にある歴史的遺産を再認識するきっかけとなりました。

平成元年には北海道の戦略プロジェクトとして、「歴史を生かす町づくり」のモデル地区に選定され、街路事業として道幅7mの街路を13m(歩道6m)に拡幅し、延長1.1kmの無電柱化工事も実施しました。平成5年からは「いにしえ夢街道」のイベントとして、商店主が集まり野外劇「江差幕末物語」や、ちんどんやなどの活動も行いました。地域の方々にはこうした活動が評価され、後の商店街の活動につながったと感じています。他にも、江差の歴史をテーマとした日本手ぬぐいの製作や「江さし草」という30年以上続く地元の季刊誌に「歴まちを歩く」というコーナーを設け、歴史を伝える取組みを続けてきました。取材の中で地元の人々の話を聞くうちに、これは面白いのでもっと何かできないか、ということで、「百人の語り部」活動がはじまりました。観光ガイドではなく、住民ひとりひとりが来訪者を案内できるようなまちにしたいという思いがあります。

「いにしえ街道」を舞台としたイベントも企画しています。全国からたくさんのお雛様を提供いただき、公共施設や蔵に展示する「北前のひな語り」や「ひな前の金婚式」、花嫁が人力車に乗って、いにしえ街道を練り歩く「花嫁行列と長持ち唄」のイベントも行いました。

3方を海に囲まれた半島だからこそ、日本の暮らしや文化があります。安易に近代化するのではなく、良いものをのこしていきたいという思いから、半島地域との連携も進めています。町づくりはしみ込みの運動です。「人」をベースにしながら、過去から未来、地域から地域へ、自分たちの身の丈に合ったまちづくりをすすめていくことが大切だと考えています。

発表④「社会につながる学校へのトライアル」

函館市立桔梗小学校 校長 近江 辰仁 氏

1.学校紹介
 函館市立桔梗小学校は、児童数691名、創立141年を迎えます。西側にJR函館本線、東側に国道5号線と渡島管内の動脈に挟まれており、学校の前の道路は日本に道百選に選ばれている赤松街道があります。「ほっかいどう学」とのつながりがなければ、わかっているつもりで終わっていたかもしれませんが、地域の歴史を支えてきた重要なインフラにかこまれている学校です。

2.「つながる」について
 「ほっかいどう学」は北海道の未来を創る子どもたちがより創造性豊かに学べる機会を提供しそれを支援していくということです。先ほどの3名のご発表はまさにその題材ですが、学校としてはこうした北海道の魅力・価値をどのように教育につなげていくか、という点が課題であると感じています。
 北海道の教育には「自立」と「共生」という基本理念があり、「ほっかいどう学」に通じるものがあります。一般には馴染みがないかもしれませんが、学習指導要領には教科ごとに「見方・考え方」が示されており、これは教育と社会をつなぐものです。子供たちが地域学習をする際には、子供たちがどういう「見方・考え方」で学習しているのかということを、学校側から地域に伝えることが大切です。身近な題材に目を向け、北海道の魅力やそれを支えるインフラを学校教育の各教科につなげていくことで、子供と社会がつながっていくと考えています。

3.教育と社会をつなぐトライアル
 トライアルとして「はこだて花かいどう」の教材化について考えてみました。2年生の生活科での学校探検から3年生の総合の時間につなげ、「はこだて花かいどう」の再発見、調査、体験、まとめ、という形で、教材と繰り返しかかわることで、地域のよさやそれを支える人々の営みに気づき、多様なものの見方や考え方を持つことを狙いとしています。さらに、40年ほど前の地図と現在と比較して、函館新道に気づかせるといった発展的な学習も考えられます。「ほっかいどう学」はまず自分たちの足元から見ていくことが大事だと考えています。「はこだて花かいどう」の教材化によって、教育と北海道の魅力、価値とをつなぐことができるのではないでしょうか。

4.パネルディスカッション


近江校長:皆さんのお話を聞いて大変刺激を受けた。専門的な道路の話や江差のまちづくり、函館新道の花かいどうの活動など、桔梗小学校に赴任するまで知らないことが多く、自分自身が社会に繋がっていなかったと実感した。学校側が社会に近づいて、社会と教育をつなげていきたい。

折谷氏:函館新道が開通したおかげで、「函館花いっぱい道づくりの会」ができ、いろいろな人と関わって人生も豊かになった。土日を使った個人的な活動として19年間続いているが、近隣の小学校で授業としてはやっていないので、教材の一つとして取り上げてもらえると有難い。秋田県の能代に伺った際に、運動会のプログラムに防災関連の活動を取り入れていると伺った。日々の活動の中で防災活動を体験していると、いざという時に活きるのではないか。

室谷氏:小さな活動ではあるが、人口は減っても若い人材が育っていけばという想いでまちづくりを進めている。子どもたちの声が響くのが町並み景観であり、地域の活力だと思う。子供たちが大きくなって地域を出ていっても地域を誇りに思ってくれることが大事だと考えている。

畑山氏:行政と学校がコミュニケーションをとることはあまりなく、本日は貴重な機会をいただきありがたい。ない。建設業の課題は担い手不足であり、官民挙げてリクルート活動を行っている。近江校長先生から「インフラの価値を再発見」というお話があったが、まさに我々もそこに取り組んでいるところであり、先生方と一緒に連携してできるのでは、と期待を持ってお話を聞かせていただいた。

5.閉会


ほっかいどう学の取り組みは老若男女、北海道に誇りを持ち、地域の内外に語ってもらう、そういった人材を増やしていく活動です。ここで何を語り、どう伝えるか、ということが課題になりますが、こうしたセミナーやシンポジウムで様々な地域の方々の活動をご紹介いただき、どう進めていけばよいかを議論しています。折谷さんや室谷さんからは楽しみながら人と人とのつながりを作っていくという活動をご紹介いただき、大変参考になりました。こうした機会を通じて、ネットワークを広げていくことで、ほっかいどう学の活動の輪が更に広がっていくと考えています。引き続き、皆様の応援をお願いできればと思います。本日は誠にありがとうございました。