ほっかいどう学連続セミナー:第1回空知の魅力再発見

世界につながる空知の魅力とそれを支えるもの

令和2年1月25日(土)、当法人の中核的な活動の一つとして北海道各地区で開催する「ほっかいどう学連続セミナー」の第1回セミナー「空知の魅力再発見」が開催されました。約120名の方にご来場いただき、活発なディスカッションが行われました。 (※文中の役職は開催日当時のものです。)

開会にあたり、主催者を代表して、新保元康理事長より開会の挨拶、国土交通省北海道開発局開発監理部次長 石塚宗司氏、北海道教育庁空知教育局局長 竹林亨氏より来賓挨拶が述べられました。

1.開会挨拶


特定非営利活動法人 ほっかいどう学推進フォーラム 理事長 
新保 元康

「ほっかいどう学連続セミナー」の第一回をここ空知で開催できたことは大変喜ばしく、関係者の皆さまに感謝申し上げたい。本日のセミナーでは、魅力あふれる空知の素晴らしさ、それを支える人々の営みを皆さまと一緒に楽しみながら勉強したい。

新保元康理事長
新保 元康 理事長

2.来賓挨拶


国土交通省北海道開発局開発監理部次長 
石塚 宗司 氏

国においては「世界の北海道」をキャッチフレーズに第8期北海道総合開発計画を動かしている。8期計画には、新保先生が学校長時代に提案された「ほっかいどう学」が施策の柱の一つとして位置付けられており、このほっかいどう学推進フォーラムをプラットフォームとして、北海道全体で連携して進めていく必要がある。折しもウポポイ、オリンピック競技開催など、北海道を世界に発信できる絶好の機会に、まさに時機を得た取組であると認識している。本日は皆さんと一緒に北海道のことを勉強させていただきたい。

石塚宗司氏
石塚 宗司 氏

3.来賓挨拶


北海道教育庁空知教育局局長 
竹林 亨 氏

「ほっかいどう学連続セミナー」が空知を皮切りに全道で展開されることを地元として誇りに思うとともに、関係者の皆さまに敬意を表したい。時代の変化とともに子どもの数は減ってきているが、いつの時代においても、学校、教育機関は将来を担う子どもたちを育てる大切な場であり、地域の歩みと今を未来の子どもたちに伝えるという役割を期待されている。本日のセミナーで空知の財宝と未来に向けた宿題を持ち帰り、子どもたちに伝えたい。

竹林亨氏
竹林 亨 氏

続いて、ほっかいどう学推進フォーラムの設立経緯、目的、活動内容について、原文宏事務局長より報告がありました。

4.ほっかいどう学推進フォーラムについての説明


特定非営利活動法人 ほっかいどう学推進フォーラム 事務局長 
原 文宏

令和元年10月に設立シンポジウムを開催させていただき、NPOほっかいどう学推進フォーラムとしての活動を開始した。当フォーラムは行政、地域、学校をつなぎ、幅広く「ほっかいどう学」を展開していく上での推進母体としての役割を担っている。今後は認定NPOを目指していく中で、より多くの方にご参加いただき、ほっかいどう学を推進していきたい。

原 文宏 事務局長

続いて、平野義文 氏(岩見沢市議会議員・北海道「炭鉄港」市町村議員連盟会長)、山﨑太地 氏(有限会社山﨑ワイナリー栽培責任者・空知シーニックバイウェイ体感未来道副代表)、北室かず子 氏(ノンフィクションライター)、佐々木克典 氏(国土交通省 北海道開発局 札幌開発建設部 特定道路 事業対策官)より、空知の多様な魅力についてご講演いただきました。

5.空知こそが明治日本の原動力だ!~日本遺産「炭鉄港」の魅力とは~


平野 義文 氏
(岩見沢市議会議員・北海道「炭鉄港」市町村議員連盟会長)

地域の歴史を知ることは、地域の誇りを取り戻すこと

「目に見えるものからその奥に何が見えてくるか」をテーマにお話ししたい。現在JR北海道の工場として使われているレンガ造りの建物「岩見沢レールセンター」から、当時、政治力、経済力を背景にエネルギー生産と物流を一手に担う最先端の企業として明治期の北海道、引いては日本を牽引した「北炭(北海道炭礦鉄道)」の姿が見えてくる。現在、空知の人々は地域に対する自信を失っている。空知にはたくさんの産業遺産が眠っている。そうしたものから地域の歴史と今を知ることで、自分たちのまちに誇りを持つことができるのではないか。

平野 義文 氏
スライド

6.「ぶどう」づくりから農村文化づくりの可能性


山﨑 太地 氏
(有限会社山﨑ワイナリー栽培責任者・空知シーニックバイウェイ体感未来道副代表)

「ぶどう」づくりを新しい空知の文化、産業の景色に

今、空知には「ワイン」という新しい産業の景色が生まれつつある。人から人へ受け継ぐことができるものだけが地域の歴史、文化として残っていくのではないか。生産地の地形や土壌、気象がくっきりと味に反映されるのがワイン造りの魅力であり、難しさでもある。先人の努力によって進めてきた土地改良を継続し、空知ならではのワインづくりを進め、新たな文化、産業として、地域に根差していきたい。空知には、地域のことを考えている人がたくさんいる。家族や子どもを思うように地域のことを思い、地域をどうすべきか、皆さんと一緒に考え、取り組んでいきたい。

スライド

山崎 太地 氏

7.世界史に残る空知のインフラ~石狩川を治めた先人のすごさ~


北室 かず子 氏
(ノンフィクションライター)

広大な大地に先人の技術力が結集している奇跡の土地、空知

1898年(明治31年)石狩川全域が浸水するほどの大水害を機に始まった空知の治水計画を牽引したのが、当時、北海道庁の技師に任ぜられた岡﨑文𠮷である。岡﨑の現代にも通ずる高い技術力と自然との共生をも視野に入れた先見性は、当時隆盛を誇ったアメリカをも驚嘆させたと言われている。今でこそ穀倉地帯と言われる豊かな空知の大地は、こうした先人の泥炭地盤との闘いの果てに作り出されたものである。北海幹線用水路をはじめとして、北海道開拓の歴史を一望できるのが空知の魅了であり、それらを掘り起こすことで、未来に新しい種をまくことができるのではないか。

北室 かず子 氏
スライド

8.空知地域の道づくり~泥炭地盤への挑戦~


佐々木 克典 氏
(国土交通省北海道開発局札幌開発建設部特定道路事業対策官)

先人の道づくりの苦難の歴史を学び、技術開発の継続を

空知地域は国内でも類を見ない泥炭地であり、国道9路線のうち、道央圏と道北圏を結ぶ物流並びに観光ルートして重要な路線である国道12号、275号は、泥炭地盤上を通っている。泥炭地盤には、沈下しやすい、支える力が弱いために盛土が破壊されてしまう、周辺の地盤まで影響して沈下してしまうなどの特性がある。先人の声からも泥炭地での工事の難しさが伝わってくる。こうした泥炭地盤を改良すべく、戦前から現在に至るまで様々な工法の技術開発が進められている。先人の苦難の歴史を学び、技術的な検証を重ねながら、今後の空知の道づくりを進めていきたい。

スライド
参加者で埋め尽くされた会場
佐々木 克典 氏
北海道のインフラ政策に関するパネル展示

続いて、「まだまだ眠る空知の宝 子供に教えたいのはこれだ」と題して、平野義文氏(再掲)、山﨑太地 氏(再掲)、北室かず子氏(再掲)、佐々木克典 氏(再掲)、間嶋勉氏(長沼町教育委員会 教育長)の5名のパネリスト、コーディネーター新保元康理事長によるパネルディスカッションが行われました。

9.パネルディスカッション
 「まだまだ眠る空知の宝 子供に教えたいのはこれだ」


■セッション1:講演に対する感想
〇平野義文氏
歴史を知らないことは罪である
日本の近代化、高度経済成長期を空知が支えたというお話をしたが、歴史を知らないことは罪である。知ることは面白い。こうしたセミナーなどを通じて知らないことを教えあうことは素晴らしい。

〇山崎太地氏
空知に眠る物語を集め、伝えたい
 シーニックバイウェイを推進する立場から、空知に眠っている物語を集めている。岡﨑文𠮷の自然を生かすという思想に感銘を受けた。困難も技術と努力で解決できるということ。空知にどれだけの物語があるのか、わくわくする。

〇北室かず子氏
先人の技術、歴史を生きたものとして発信してほしい
赤平港で手書きの平面図を見て膨大な炭鉱技術の一端を垣間見たようで感動した。先人が何をやってきたのか、面白いコンテンツで伝えてほしい。知識としてではなく、現代の問題意識に対して学べることがあるのでは、という視点で歴史を捉える視点が重要。

〇佐々木克典氏
若い行政職員にも北海道の歴史を学んでほしい
今回の講演を機に、はじめて自分で勉強した。河川行政に携わる若い職員にもほっかいどう学を勉強してもらいたい。

〇間島勉氏
地鎮さんから地域の歴史を学ぶ素材を発見できる
 北室さんのご講演にあった地鎮さんは恐らくどこの地域にも海岸の横にあると思うので、地域の歴史を学ぶ素材を見つけられるのではないかと思う。

■セッション2:子どもたちに教えたいことは何か
〇教育関係者(参加者)
今日の講演はどれも授業にしてみたいと思った。中でもすぐに実践できる題材は治水、泥炭。ワインも非常に面白く、空知の未来をつくっていくという意味で、明るい授業にできるのではないかと思う。


■セッション3:地域と学校の協力関係
〇北室かず子氏
開拓の歴史を伝える言葉のインフラ整備が必要
北海道開拓の歴史は日本近代史がそのまま映し出されている稀有な例であるが、言葉のインフラが築かれていない。(わかりやすく伝えることで)新しい概念を生み出せるのではないか。また、学ぶには本物を見る、体験することが大事。

〇佐々木克典氏
「みち学習」を通じて学校教育と実践的な連携を
総合的な学習の時間の新設を機に始まった「みちプロジェクト」をより実践的にした「みち学習」に教員の先生方と一緒に取り組んでいる。社会科を専門としない教諭や新任の教諭でも地域の特色を生かした授業を実施できる内容を目指している。

〇山崎太地氏
組織の壁を越えて、誇りを持てる地域づくりに尽力したい
子どもたちには将来、空知に生まれ育ったことを誇りに思ってほしい。そうした新しい価値観を作り出すためには明るい姿を大人が見せることが大事。組織の垣根を越えて、「教育より大事なことはない」をキャッチフレーズに空知の教育環境整備に協力したい。

〇間島勉氏
教員が使いやすい地域素材の教材化、単元化を
今の学校現場は忙しく先生方は地域の歴史を勉強する時間がもてない。地域素材の教材化は時間も手間もかかるが、組織的に副読本などの教材化、単元化を進めてもらえれば地域学習の発展につながるのではないか。

〇平野義文氏
地域遺産から近代史を学ぶ教育を
岩見沢市内の小中学校では、地域と連携して炭鉄港をテーマにした授業や施設のバス見学などを行っている。現代から近代から歴史を遡って学ぶとわかりやすいと思う。子どもを育てていくのが何よりの使命と感じている。

まとめ


〇原文宏事務局長
各講演を聞いて、空知の産業基盤はインフラ整備にあったことを改めて感じた。空知は地域学習素材の宝庫。日本各地、四国香川、ミシシッピ川、岡﨑文𠮷など、時間と空間のつながりを軸に教材化することもできる。また、空知には新しい産業の「光」と囚人道路など、「影」の部分がある。これらをほっかいどう学としてどう教えていくか、皆さんと一緒に考えていきたい。また、次のステージとして、空知のインフラツーリズムなども検討したい。

〇新保元康理事長
日本の明治期、近代を支えたのは空知だということ、世界的な技術者が石狩川を治め空知を守った、という歴史、そして今の空知にはワイン産業という未来をつくるチャレンジャーがいることを学んだ。子どもたちにもぜひ伝えたい。「日本は小さい。北海道は大きい」という非常に印象的なキャッチコピーがある。他府県の13倍ほどの面積を有するこの北海道の魅了や北海道を開拓してきた人の汗を我々はまだ知らない。ぜひ、皆さんと一緒に勉強していきたい。