ほっかいどう学連続セミナー:第9回

十勝再発見

令和6年3月9日(土)、当法人の中核的な活動の一つとして北海道各地区で開催する「ほっかいどう学連続セミナー」の第9回連続セミナー「十勝再発見」が開催されました。教育関係者、社会資本整備関係者の他、一般からも多数ご参加いただきました。
(※文中の役職は開催日当時のものです。)

開会にあたり、主催者を代表して、倉内公義副理事長より開会の挨拶が述べられました。

1.開会挨拶


特定非営利活動法人 ほっかいどう学推進フォーラム 副理事長 倉内公嘉

当法人は2019年に設立され、満5年目を迎えようとしている。この間、北海道開発局をはじめとする行政機関の皆様、建設会社、コンサルタントの皆様、そして北海道の人づくり、基盤づくりに携わっていただいている学校の先生方、教育行政の皆様にご支援いただいた。改めて、皆様のご支援ご協力に感謝を申し上げたい。振り返ると、設立後まもなくコロナが蔓延し、活動の制限など大きな影響を受けたが、一方で、リモートを使った柔軟な働き方や学校のデジタル化の進展など、良い影響もあったように思う。コロナが収束しつつあり、一層の活動の推進に向けて皆様のご支援をお願い申し上げたい。

本日は帯広を舞台に「十勝再発見」というテーマで開催させていただく。十勝は民間による開拓の歴史をもつ独立独歩、自立精神が旺盛な地域として、北海道の中でも独特な文化や風土がある。皆さまのご発表を楽しみにしている。

▲開会挨拶 倉内 公義 理事長

2.発表① 改めて知ってほしい十勝インフラの底力


神山 繁 氏(国土交通省北海道開発局 帯広開発建設部 次長)

国土交通省というと道路のイメージが強いかもしれないが、農業や河川、港などもつかさどる、北海道総合開発計画を推進する総合行政機関である。十勝の地図をご覧いただくと、東西に北海道横断道路が、南北に帯広広尾自動車道という高速道路があり、大変アクセスのよい地域である。

十勝のインフラ整備の歴史をたどると、十勝川の整備、黄金道路、日勝道路、十勝大橋、十勝港の建設、農地の排水改良、農地の大区画化などがある。十勝は食料自給率1200%を誇るが、こうした治水、農業農村整備、道路整備、港湾整備といったインフラ整備が、広域分散の生産空間を支えている。災害時にも開発局は大きな役割を担っている。記憶に新しいところでは、農地に甚大な被害が及んだ平成28年8月の北海道大雨激甚災害では、開発局の河川部門、農業部門等が連携して、河道掘削で発生する土砂を被災した農地の復旧に有効活用し、早期の復旧につなげた。結果として災害を契機とした離農者は発生しなかった。ハード整備以外では、シーニックバイウェイ、サイクルツーリズムのほか、地域と連携したコーヒー豆や冬の遊びなど、新たな観光コンテンツの創出にも貢献している。また、十勝の魅力を発信する「道の駅」では、防災備蓄倉庫としての機能や子育て応援設備の充実化にも力を入れている。

北海道総合開発計画は現在9期目の計画を策定している。そこに出てくる生産空間の維持・発展と強靱な国土づくり、食料安全保障、観光立国、脱炭素化といったキーワードはいずれも、ここ十勝が牽引する役割を担っている。今後も、日本有数の「生産空間」である十勝の発展を支えていきたい。

▲神山 繁 氏

3.発表② 士幌町は人口減少にどう立ち向かっているのか


高木 康弘 氏(士幌町 町長)

士幌町は大正10年に音更村から分村して令和3年で100周年を迎えた。士幌町の歴史は農村発展の歴史でもある。昭和30年代から「農村ユートピア」建設を目指し、町、農協、農業委員会などが連携し、農村工業を導入した。農産物を生産するだけでなく、ポテトチップス、コロッケなどに加工し、付加価値をつける付加価値農業を展開したことで、農業生産は飛躍的に伸び、雇用の拡大、人口の安定に繋がった。令和3年の農業生産額は464億円と十勝管内全体の12%を占め、全国でも有数の農村として発展した。

人口推移を見ると、昭和30年以降、離農によって人口は7千人近くまで減少したが、その後、馬鈴薯加工工業の稼働により微増に転じ、平成12年以降は過疎地域を卒業している。社人研の推計では、2020年に5,632人の予測に対し5,848人と、推計よりは良い結果であった。2050年には3,713人まで減少するという予測であるが、出生率や移行率の増加を目指している。

士幌町では「まち・ひと・しごと総合戦略」として、雇用の創出、住環境の充実による移住・定住の促進、結婚・出産・子育て支援の充実、安心して住み続けられる地域づくりに取り組んでいる。具体的には、マイホーム建設支援事業や定住スタート応援補助金、子どもの医療費、給食費の無償化等である。また、定員を上回る入園希望に対応するため、認定こども園の改築整備も進めている。嬉しいことに、昨年1年間の転入・転出の差(社会増減)が10名のプラスであった。この流れを継続できるよう、きめ細やかな行政、町民がイキイキと暮らせる士幌町、住んで良かったと思える満足感、経済的な豊かさ、プラス心の豊かさを大切に町政に取り組んでいきたい。

▲高木 康弘 氏

4.発表③ 人口減少対策を小学生が考える


伊澤 亮 氏(士幌町立中士幌小学校 教諭)

北海道の教育の基本理念にふるさとに誇りと愛着を持つ児童の育成がある。前任の羅臼町では子どもたちが地域に愛着を持っていた。一方、中士幌の子どもはどうかと考えた時、もっと士幌町に対する誇りと愛着を育てたいと考えるようになった。そこで、「人口減少対策を小学生が考える」という授業に挑戦した。「町の良さ、課題を見出す。そして、小学生なりの考えでその課題にアプローチしていく方法を考える。実際に街のために活動をしてみる。」そうすると、もっと街が好きになるのではないかと考えた。授業は髙木町長、開発局の方にもご協力いただき、士幌町が消滅可能性都市になっているという事実から、町の人口を維持し、増やしていくためにはどうすればよいか、現状を知るところからスタートし、町独自の取り組みや、町を超えた取り組みを教えていただいた。子どもたちからは、移動販売や、スクールバスの活用、人を呼び込む魅力的なホテル等、子どもならではの様々なアイデアが出され、士幌町のユートピアメールを通じて提案した。高木町長からは子ども向けではない、真剣なメッセージが届き、子どもたちは感動していた。町の存続を「人口」の観点から具体的に迫っていったことは、児童にとってイメージしやすかったのではないかと考えている。こうした授業は外とのつながりが大切であり、自分自身も地域を支えているインフラのことをもっと知りたいと感じた。士幌町、十勝だけでなく、北海道中の子どもたちが、ふるさとに誇りと愛着をもてるよう、農家の方や漁師の方など、色々な大人と子どもが議論するような機会もつくっていきたい。

▲伊澤 亮 氏

5.発表④ ほっかいどう学の魅力 十勝での展開


杉本 伸子 氏(学校法人帯広葵学園認定こども園つつじが丘幼稚園 園長)

中札内村は「日本で一番美しい村連合」にも加盟している景観が素晴らしい村である。私たちが暮らしているこの世界はたくさんの人々の営みでできている。「景観」もその一つであり、景色とは違い、人が創り、守ってきた営みである。子どもたちにも社会とつながることで、こうした営みを分かってほしいという願いがある。第8期北海道総合開発計画の中で「ほっかいどう学」の推進が謳われ、「北海道の子どもたちにもっと北海道を」をキャッチフレーズにNPOほっかいどう学が設立され、各開発局に「みち学習検討会」が立ち上がった。十勝みち学習検討会は2021年にスタートし、最初の実践は、土地の特色や情報の拠点である「道の駅」を教材にした2年生の生活科の授業であった。子どもたちは“中札内が大好き”、“「道の駅」には中札内の魅力を発信するものがある”、“もっと中札内村に多くの人が来てほしい”、そんな思いをもって授業を終えた。翌年は5年生で「未来の中札内を魅力的にするには」という授業を公開で行った。ICTを駆使して中札内村の魅力や課題を学んだ。授業後の研究会では授業の良し悪しだけでなく、子どもと一緒に村の未来を考えることの価値について、多方面から意見をもらい、大変盛り上がった。そして、先ほどご紹介があった伊澤先生の授業も十勝みち学習の一つである。行政のトップに授業に来ていただくという贅沢な授業であった。少子高齢化、人口減少は日本の大きな課題であるが、子どもたちには人任せではなく、自分たちが社会をつくっている、という意識で立ち向かってほしい。教育関係者として、そのための学びの後押しをしたい。

▲杉本 伸子 氏

続いて、パネルディスカッションを行いました。

6.パネルディスカッション


<コーディネーター 新保元康 理事長>

本日は色々な視点から再発見があった。NPOほっかいどう学は北海道を知り、愛着を育て、未来創りに自ら参画する人材育成に向けて、学校と開発局はじめ企業・団体、地域の橋渡し役として、全道140名の先生方と共に教材、授業開発に取り組んでいる。教育は大きな時代の転換期を迎えている。資本力の大きな組織の情報で溢れかえるデジタル化の時代において、如何に我々の北海道、地域の情報を作っていけるかが、重要。デジタル化は冷たい孤独な授業というイメージをもたれがちだが、実際は違う。友達と助け合いながら、先生に助けてもらいながら頑張るというスタイルである。

十勝みち学習では、伊澤先生の授業に高木町長にもお越しいただき、人口減少について学ぶ画期的な授業にトライアル頂いた。他にも留萌では「道の駅」をテーマに、函館では地域の広がりをテーマに交通網の変遷をデータ化、教材化した。オホーツクでは子どもたちが自分たちのシーニックバイウェイでポスターにするなど様々な実践が進められている。NPOではこうした成果を一つに集約し、地域の魅力、それを支えるインフラ、人の営みを学ぶプラットフォームを構築することで、デジタル時代の地域学習をより豊かにしたいと考えている。これまでの会員の皆様のご支援に感謝し、引き続き活動を推進していきたい。

今回のセミナーは人口減少にフォーカスしている。ピーク時に570万人だった北海道の人口は、26年後の2050年には382万人にまで減少するという推計が出ている。つまり74年前の昭和25年頃の生産人口に戻ってしまう、という衝撃的なデータである。ここからは、短い時間であるが、この状況に如何に立ち向かっていくか、ディスカッションしたい。

<それぞれの発表を聞いて一言>

  • 杉本先生:ご紹介した十勝みち学習の動画は題材もシナリオも検討会メンバーが考えたもの。そして、普通は見ることができないような場所を見せてくれたのは開発局であり、動画制作にはNPOにも協力いただいた。色々な方と協働によってできた授業。それぞれのご発表を聞いて、組織を超えた教育との関係性を感じた。
  • 伊澤先生:教員の立場から子どもにどう落とし込むかを考えながら皆さんのお話を聞いていた。インフラについて自分自身がもっと学びたいと感じた。
  • 神山氏:人口減少というと本州ではコンパクトシティという発想があるが、人が分散して生産空間を維持していかなければならない北海道では通用しない。人口減少の中でも生産空間を維持するためにインフラの役割は重要。DX、新技術、効率化など皆で考えなければいけない。
  • 髙木町長:十勝管内には18の町村があり広域である。高速道路、国道が整備され、時間短縮は実現したが、これをさらに進化させ生活を便利にしていく必要がある。学校教育も電子黒板や一人1台端末を使って児童の意見が集約されるなど、大きな変化を感じた。今回、自分の地域を知るという授業をしていただいた。行政としても子どもたちの期待に応えられるよう行動していきたい。

<人手不足など現場の課題を教えてほしい>

  • 杉本先生:多様な子どもへの対応が必要な中で、教育現場での人手不足は深刻な問題である。幼稚園、保育園、小学校も先生を探している。教育の方法も考えなければいけない。
  • 伊澤先生:移動時間の短縮、Wi-Fi環境の改善などで、学校に集まらなくても学べる環境はできてくると思うが、やはり、学校には子どもたちに集まってきてもらいたい。そのためにもインフラの役割は大きい。

<デジタル化が進む中でのインフラの意義について>

  • 神山氏:例えば道路を整備して、(分散している)医療施設を集約することは可能かもしれないが、農業などに係る生産空間は動かすことができない。高速道路整備の役割はそこにある。
  • 髙木町長:コミュニティバスを運行しているが、道路整備をしっかりしないと安全な運行はできない。除雪体制も重要。デジタル技術、インフラ整備の両方が進むことで安全で便利な社会になると考えている。

<人口減少に対して何ができるか>

  • 神山次長:道路整備によって医療支援効果や、物流の効率化による商品価値の向上が期待できる。十勝は観光でも有数の地域であり、交通ネットワークが広がることは大きな効果がある。
  • 伊澤先生:人口減少対策は簡単ではないが、子どもを増やすことしかない。地域だけでなく、日本全体、世界を見ながら、(この課題に対して)自分はどう生きていくのかを考えられるよう、子どもたちを導きいていければ。
  • 髙木町長:士幌で働いている方に士幌に定住して欲しいという想いで、様々な政策を進めている。子育て環境も重要であり、核家族化が進む中で安心して子育てと仕事を両立できる環境整備にも力を入れていきたい。
  • 杉本先生:学校だけで閉じず、社会と学校をつなぐ役割を果たしていきたい。海外の子どもの受け入れなど、多様なニーズがある。地域、学校が柔軟に対応できることが社会増を増やす要因になるのではないか。

<コーディネーター 新保元康 理事長>

学校は、やはり教科書が中心の授業になるが、そこを超えた地域の課題がある。それを色々な方と一緒に学んでいく、この大切さが今日改めてわかったと感じている。本当にありがとうございました。

▲コーディネーター 新保元康 理事長
▲パネルディスカッションの様子

7.開会挨拶


特定非営利活動法人 ほっかいどう学推進フォーラム 事務局長 原文宏

風景、景観というものは人々の営みの中に生まれてくるものである。十勝は食料自給率が1,200%ということで、日本全体の食に貢献している地域である。食料を全国に届けるインフラの役割も含めて、子どもたちには地域に誇りをもち、住み続けたいと思ってほしい。またこういった機会をつくっていきたい。本日は誠にありがとうございました。