令和3年2月20日(土)、当法人の中核的な活動の一つとして北海道各地区で開催する「ほっかいどう学連続セミナー」の第4回連続セミナー「世界につながる後志の魅力とそれを支えるもの」が開催されました。新型コロナウィルス感染症拡大防止の観点から、会場参加の他、オンライン配信も行い、教育関係者、社会資本整備関係者をはじめ、約120名の方にご参加いただき、活発な意見交換が行われました。
(※文中の役職は開催日当時のものです。)
1.開会挨拶
特定非営利活動法人 ほっかいどう学推進フォーラム 理事長 新保 元康
ほっかいどう学連続セミナーは4回目を迎え、会場、オンライン併せて約120名の皆様にご参加いただている。“北海道を学ぶ”ということへの関心の高さを改めて実感している。本日は来賓に国土交通省北海道開発局長倉内様をお迎えし、ニセコ町長片山様、そしてパネリストにも豪華メンバーにご登壇いただくということで、大変楽しみにしている。テーマは「世界につながる後志の魅力とそれを支えるもの」ということで、後志の魅力を皆さんと一緒に勉強していきたい。
2.来賓挨拶
国土交通省北海道開発局局長 倉内 公嘉 氏
コロナ感染拡大防止の観点で様々なイベント・会議がリモート開催となっている中、本日は現地開催も行うということである。北海道の各地を訪れ、その土地を感じるということも、一つのほっかいどう学の取組みであると認識している。国土交通省はほっかいどう学の普及促進を進める立場であるが、ぜひ、本日ご参加の皆様にも主体的にほっかいどう学の推進にご協力を賜りたいと願っている。
北海道総合開発計画は平成28年3月に閣議決定され、「世界の北海道」をキャッチフレーズに2050年を見据えたビジョンとして「世界水準の価値創造空間の形成」に向けて取組みを推進しているところである。同計画では、「人こそが資源」であると捉えており、人々を惹き付けるような価値創造力を磨くことをめざしている。ほっかいどう学の推進はまさに地域の理解と愛着を深める取組みであり、人々のコミュニケーションの広がりを促進するものと考えている。
連続セミナーも第4回を迎え、教育に携わられる方々のお話を伺う機会を得て、今更ながら先生方が非常に強い責任感のもと北海道の子どもたちの教育に尽力されていることを実感している。感受性の強い子どもの時期に北海道の何を、どのように伝えていくのか、ということは非常に責任の重いテーマであるが、それを議論するのがほっかいどう学推進フォーラムという「場」である。
本日ご登壇いただく皆様、関係者の皆様に感謝申し上げるとともに、ほっかいどう学の一層の発展を祈念して挨拶に代えさせていただきたい。
3.趣旨説明
特定非営利活動法人 ほっかいどう学推進フォーラム 事務局長 原文宏
当法人の活動は、令和元年8月に法人登記され、現在二期目を迎え、会員数も256名と非常に多くの方にご支援いただき、活発に活動させていただいている。
活動目的は、「北海道の魅力や地理、歴史、文化、産業等を「ほっかいどう学」として、子どもから大人まで幅広く学び、地域に関する理解と愛着を深める取組を促進すること」であり、大きく4つの活動がある。
①北海道の魅力や地理、歴史、文化、産業等の調査研究、知識や理解の向上に関わる事業。
②主体的な社会形成者としての意識を高め、自分たちのまちづくり・地域づくりに積極的に参画する人材の育成に関わる事業。
③社会基盤の整備が、自分たちの日常生活や安全、社会経済活動と密接に関係している事の知識や理解の促進に関わる事業。
④本法人の目的に関わる行政・学校・地域・企業との連携と交流を促進し、その成果と意義を広く伝える事業。 本日のセミナーは④の活動にあたるもので、今後も各地でセミナーを開催する予定である。ぜひ、ほっかいどう学の普及促進に向けて一層のご支援ご協力をお願い申し上げます。
4.基調講演
「持続する社会と教育への期待」SDGS未来都市ニセコの挑戦
片山 健也氏(ニセコ町長)
住民自治と民主主義
ニセコ町の基本的な考え方は、地方自治体は「住民の自治機構」であるというもの。「公益・公開・公正」をキーワードに、様々な取組を進めてきた。こども議会やこどもまちづくり委員会などもその一つで、批判もあったが、子どもの純粋な質問によって答弁する側の能力が鍛えられた。子どもがまちづくりに参加する意義は大きい。財政面でも予算ヒアリングから全て公開している。「まちづくり町民講座」という取組みも行っており、職員から大反対を受けたが、政策意思形成過程、つまり、職員と住民が意見交換しながら政策の質を上げていくことは、民主主義であり住民自治の基本と考えている。道の駅「ニセコビュープラザ」、図書館も白紙段階から住民参加により建設に至った事業である。
世界のニセコへ
ニセコ町にはスキー場外の事故防止を目的とした「ニセコルール」というものがある。ニセコのキーパーソンである新谷晁生さんを中心に作成されたもので、海外でも大きく取り上げられた。雪質だけでなく、こうした取組みが世界的に評価され、「世界のニセコ」としてブランドが確立した要因の一つと考えている。また、ニセコ町は、『景観・環境規制』が“共感”に基づく『良質な投資』を生むという考え方をもっており、行政による一方的な規制ではなく、住民との徹底的な話し合いによって、景観・環境に対して厳しい仕組みを設けている。こうした取組みを視察しようと、海外の視察団がニセコを訪れている。
SDGs未来都市の推進
環境政策としては、2002年から「小さな世界都市」をテーマに、環境負荷を軽減する取り組みを進めてきた。2018年にはSDGsのモデル都市に選定され、官民連携の事業主体「株式会社ニセコまち」を設置し、SDGs街区を構想している。こうした取り組みはジャパンタイムズに表彰されるなど注目を集めている。環境を大事する「Top100選」として選定された。
未来の子どもたちへ
SDGsのキーワードは誰一人取り残さないということである。有島武郎の遺訓「相互扶助」助け合うまちづくりはニセコでずっと続いてきた。キーワードは「共感」。コロナ禍で教育格差は一層深刻化している。社会的な包摂として、経済とこどもの成長・学力格差を埋めていくことが必要。子どもは社会で最も弱い立場にあり、子どもを守ることが高齢者、環境を守ることにもつながる。少しでも良い環境を子どもたちに残したい。小さな町が一つ一つ変われば国が変わると考えている。
5.パネルディスカッション
ニセコ町長 片山 健也 氏
国土交通省 北海道開発局 小樽開発建設部長 坂場 武彦 氏
北海道教育庁 後志教育局長 中澤 美明 氏
小樽市立山の手小学校 校長 中島 正人 氏
ニセコ町立ニセコ中学校 教頭 午来 睦美 氏
◆国土交通省 北海道開発局 小樽開発建設部長 坂場 武彦 氏
小樽開発建設部はインフラの維持管理を担当している。教育とインフラは、国の土台、骨格となり、時間がかかる、非常時に関心が高まるなど、共通点が多い。インフラ整備を進める立場から伝えたいことは、インフラは後志の魅力を高めるということである。例えば、高速道路を例に挙げると、まず時間短縮効果がある。後志自動車道が全線開通することで、新千歳空港から2時間以内で倶知安町に行けることになり国際競争力が高まる。また道内には分娩可能な医療施設が限られており、高速道路はまさに「命の道」といえる。さらに、あまり知られていない効果として、高速道路は一般国道と比べて死傷事故率5分の一と少なく、交通安全にも寄与している。高速道路以外にも「小樽港のクルーズ船受入れ」は集客効果と経済効果が期待できる。こうしたインフラの意義を共有していくことが重要である。
◆北海道教育庁 後志教育局長 中澤 美明 氏
小樽開発建設部はインフラの維持管理を担当している。教育とインフラは、国の土台、骨格となり、時間がかかる、非常時に関心が高まるなど、共通点が多い。インフラ整備を進める立場から伝えたいことは、インフラは後志の魅力を高めるということである。例えば、高速道路を例に挙げると、まず時間短縮効果がある。後志自動車道が全線開通することで、新千歳空港から2時間以内で倶知安町に行けることになり国際競争力が高まる。また道内には分娩可能な医療施設が限られており、高速道路はまさに「命の道」といえる。さらに、あまり知られていない効果として、高速道路は一般国道と比べて死傷事故率5分の一と少なく、交通安全にも寄与している。高速道路以外にも「小樽港のクルーズ船受入れ」は集客効果と経済効果が期待できる。こうしたインフラの意義を共有していくことが重要である。
◆小樽市立山の手小学校 校長 中島 正人 氏
ふるさと学習教材「小樽の歴史」の取組をご紹介したい。小樽市では、令和元年12月に「主体的に学び小樽の未来を創る心豊かな人づくり」を基本理念とする「小樽市教育推進計画」が策定された。この理念に基づき作成されたのが「小樽の歴史」である。内容は明治以前からの小樽の歴史が網羅されており、 市民の「小樽をもっと知ってほしい」、「誇りに思ってほしい」という声と、小樽の恵まれた教育資源を生かした学校教育を、という想いが反映されている。R2年度から市内の全小学校で授業を開始した。地元に特化した学びは初の試みであり、外部講師を招いたオリエンテーションをはじめ、子どもたちは非常に意欲的に取り組んでくれた。感想文からは、小樽の歴史を学び、誇りと愛着が醸成された様子が伝わってきた。小樽の未来を創る人づくりに向けてこうしたふるさと教育を充実させていきたい。
◆ニセコ町立ニセコ中学校 教頭 午来 睦美 氏
教育は、学校の先生だけでなく、地域の大人にも関わってほしいという想いがある。その想いから行った二つの実践をご紹介したい。一つは、ガイドブック「積丹町の中学生が伝えたい積丹町」作成である。観光用ではなく、子どもたちが地域づくりに関われるもの、ということで、地域課題も取り上げ、デザイナーも参画して作成した。反響が大きく、管内の全道の駅に設置できた。取組の中では地元の漁師や店主も先生としてWSに参加するなど、地域の働く大人も積極的に関与してくれた。二つ目はニセコ町の「町内ハザードマップ」の作成である。中学2年生の社会科単元の中で、コミュニティスクールも絡めながら元自衛官、役場広報担当の方々等にも協力いただき作成した。住民向け、町外向けなどシリーズ化も検討している。地域の豊かな人材と学校とをつなぐことが豊かな教育につながる。
■意見交換
地域学習には可能性がある
- 片山氏:SDGsのキーワードである多様性の観点からも教育の自由度を高めてほしい。
- 中澤氏:学習指導要領という枠組みはあるが、題材などは各学校の裁量に任せられている。地域のオリジルの題材を扱うことは教育効果を高めると思う。
- 午来氏:北海道の子どもをどう育てていくかという視点を大切に、素材と教科は自由に取り組んできた。
- 新保:日本の教育は大枠がしっかりしている。色々な可能性がある。
小中学校の連携を
- 中島氏:小中学校の連携が難しく感じている。何かヒントがあれば。
- 中澤氏:地元進学率が高い後志の特色を生かした「地域カリキュラム」を提案している。小学校は体験的学習、中学校では教科学習の応用、高校では政策提案まで、地域を学んでいくというもの。高学年ではデータを使って課題に向き合うことも重要だと考えている。
役割分担による現場負担軽減を
- 坂場氏:学んでほしい題材はたくさんがあるが、現場の先生方の負担が懸念される。
- 中島氏:例えば社会教育分野と役割分担をするなど、現場の先生の負担を軽減することが必要。
- 新保:NPOが行政と学校の中間的存在として、連携をサポートする役割を担いたい。
■「世界の後志」子どもたちの学びに必要なこと
〇午来氏:道具や言葉を使って子どもたちが外の世界とつながることで、考え方、物の見方の違いなど、多様性を認める力が育つ。
〇中島氏:小樽では子供たちが英語で観光案内をするイベントを開催している。英語力以上に、こうした体験的活動を通じて、人と関わることの楽しさを学ぶことが重要。
〇中澤氏:先生も肩の力を抜いて外部の力も借りながら、子どもと一緒に発見の喜びを大切にすることが良い学びにつながるのではないか。 〇片山氏:地域活力に必要なのは「運動量」、つまり主体的に行動する力である。画一的な教育ではなく、柔軟に子どもの主体性を育ててほしい。
セミナーを終えて
今回も多様なメンバーにより、様々な視点から情報共有、意見交換が行われた「ほっかいどう学連続セミナー」。主体性を育てる寛容な教育、多様性を認め合う社会など、人材、資源ともに豊富な 後志ならではの前向きな議論が展開されました。そして教育と社会の連携は、まさにこうした議論を繰り返すことで前進していくものである、と感じました。