ほっかいどう学連続セミナー:第6回

釧路・根室地方のインフラと教育の接点を探る

 

令和4年4月23日(土)、当法人の中核的な活動の一つとして北海道各地区で開催する「ほっかいどう学連続セミナー」の第6回連続セミナー「釧路・根室地方のインフラと教育の接点を探る」が開催されました。オンラインも併用し、教育関係者、社会資本整備関係者をはじめ約120名の方にご参加いただきました。当たり前に存在するインフラの意義や価値を北海道の未来を担う子どもたちに教育の現場から教えていくことの重要性が改めて、共有される場となりました。
(※文中の役職は開催日当時のものです。)

1.発表①釧路・根室地方のインフラ整備のポイント


大野 崇氏(国土交通省 北海道開発局 釧路開発建設部 次長)

明治から戦後にかけて釧路は急速に発展を遂げた。その背景には産業とインフラの関係性がある。釧路港は硫黄山で産出された硫黄の積出し港として利用されていた。硫黄は火薬の原料であり、貴重な資源として釧路港から本州へ運び出されていた。林業、製紙工場、硫黄鉱山、炭田などインフラと結びつき、釧路は発展していった。発展の契機となった出来事の一つが大正9年の大洪水である。市街地も冠水するなど大きな被害を受け、釧路川新水路整備が始まった。1台で150人分の仕事ができる当時最新鋭の掘削機械エキスカベーターを3台導入する一大治水事業であった。今では当たり前の風景になっている釧路の工業集積地はこうした治水事業による地盤整備に支えられている。

北海道開発の歴史は昭和25年の北海道開発法に遡る。終戦直後、荒廃した国土の食料生産能力の向上が急務であり、北海道総合開発計画への期待は大きく、釧路もその一翼を担った。開拓当初は畑作が中心であったが、冷涼な地域ならではの発展があると、国策として戦後は酪農に特化した農業に転換した。開発局は農業基盤整備とともに、治水事業として捷水路と堤防を整備した。その結果、昭和30年から60年かけて牧草地面積、乳牛頭数は10倍近くに発展した。開発局は今年70周年を迎えるが、一貫して治水事業、農業基盤整備、道路整備によって経済を盛り上げ、国の課題解決に寄与する仕事を続けてきた。これから先は生産空間の生き残りをかけた10年になる。インフラ整備を通じて道東地域を盛り上げていきたい。

2.発表②ほっかいどう学に期待する「社会に開かれた教育課程」


原 健一氏  根室教育局教育支援課義務教育指導班 義務教育指導班主査

学校では、「社会に開かれた教育課程」を新学習指導要領の基本的な理念として、これまで社会の後追いになりがちであった教育を、学校教育を通じてよりよい社会を創るという方向に転換しようとしている。オホーツクのシーニックバイウェイの活動はまさにこの理念の象徴的活動といえる。では、釧路・根室の子どもたちには何ができるか。インフラの視点で考えると様々な可能性が見えてくる。一つは、釧路の産業は日本各地に広がっているという事実。根室港のサンマ、牛乳、牡蠣などの地域の誇りである産業は道路を通じて日本各地に運ばれている。また、ロードキル問題からも道路と生活が密接にかかわっている事実を実感させられる。開発局の安全対策によって事故は低減しているが、一市民としてもこの問題を考える必要がある。災害時の安全確保、復旧に向けた活動、地域の開拓の歴史からも学ぶことが多くある。

北海道の生き残りに向けた課題意識は10年以上前から変わっていない。子どもの意識はどうか。全国調査では、半数以上の子どもは地域や社会のために何をすべきか考えていない、という結果が出ている。北海道に至ってはさらに低く、20%未満に留まっている。誰かが何かをやってくれるという意識を変えなければいけない。そのために、教育の立場からは「学校教育を通じてよりよい社会をつくる」、という立ち位置で、「知る・理解する」から「参画する」へ、また、小学校の学びを中学校で発展させる、さらには「管内」で閉じず北海道全体で連携すること、などを大切にしたいと考えている。

3.発表③社会科授業のほっかいどうリソース


水野 秀哲氏 釧路町立富原中学校 校長

学校教育が目指すものと「ほっかいどう学」が目指すものをどうつなげるか、数多ある社会事象の何を「教材」として、何を「目標」とすべきかについてお話したい。本州から見ると北海道には自然、食をはじめ特色があふれているが、道民の多くはそうした実感に乏しい。道東も3つの国立公園、日本を代表する漁場、酪農、観光資源等、恵まれている一方で、人口減少、交通の便、少子高齢化、後継者不足、経済不振等多くの課題を抱えている。開発局では「釧路・根室連携地域『地域づくり推進ビジョン』」を策定し5年後を見据え、広域交通ネットワーク形成や世界水準の観光地形成など様々な魅力的な構想を掲げている。一方、中学校社会科では、社会に見られる課題の解決に向けて選択、判断する力、未来に向けて「構想」する力が求められている。インフラを一つの社会事象と捉え、多面的、多角的に考察し、未来志向で社会を「構想」するという課題はこれに通じるところがある。インフラが整備されて当たり前になり、その価値が見失われつつある今、インフラの特徴や働きを紹介する、すなわち、「事実認識」に留まる授業では不十分である。一般の人たちには知られていない北海道ならではのインフラ整備の目的や狙いがあるはずである。北海道の課題を「自分事」として捉え、論理的思考に加え、「なぜ、そのインフラが必要なのか」、「本当に必要なのか」といった批判的思考、創造的思考を伴う授業づくりによって、地域に自ら愛着をもち、誇りに思えるようにすることが重要ではないか。

4.パネルディスカッション


パネリスト
釧路町立富原中学校 校長 水野 秀哲さま
釧路開発建設部 次長 大野 崇さま
北海道教育庁根室教育局義務教育指導班 主査 原 健一さま
釧路市立昭和小学校 教諭 石川 美穂さま

コーディネーター
新保 元康(認定NPOほっかいどう学推進フォーラム)

テーマ:「知らない」ことの怖さ 未来の北海道に向けて このままでは心配!

原氏:見えるものから見えないものの意味、背景にどうつなげていくかが大事だと考えている。札幌に少し住んでいた時期があり、雪の問題を初めて実感した。「知る」で終わってはいけないが、まずそこから始めなければ行動ができない。

石川氏:私自身知らないことが多いと感じる。こういう機会で改めて知ることがたくさんある。インフラの教育の接点と考えた時、インフラとは何か、現状はどうなのか、説明できない。北海道の魅力を問われたら何を答えられるか。本州や海外の人から見て魅力的な北海道だが、それを当たり前と感じている子どもたちに、どう教えられるか考えていきたい。

水野氏:事実を知っていてもその意味、価値を知らない。インフラが典型だが、存在が当たり前になり、何のためにあるか考えることがない。魅力に気づかせるためには、比較をすることが大事ではないか。
人口減少は止められない。少ない人口でも暮らせる仕組みが作られる中で、物の価値、存在理由を理解する必要がある。

新保:教科書ではそこまで書くことができないが、大事なことでありそこは教育の仕事。

大野氏:蛇口をひねると水が出るのが当たり前。裏方としては複雑な気持ちがある。第8期総合開発計画で「生産空間」の維持を掲げているが、農業生産活動の場という意味だけでなく、観光や本州にはない生活の質という意味でも、生産空間は新たな価値として北海道の魅力を生み出している。

テーマ:これからどうする!教育とインフラ 私のアイデア

石川氏:子どもたちが「自分ごと」として捉えられるような授業づくりをしていきたい。教材開発が負担に感じる先生もいる中で、社会科が専門でない先生も授業ができる教材整備が必要。動画や写真などは貴重な教材なので、みち学習でも開発局さんにご協力いただきながら進めていきたい。

原氏:誰でもできる授業を目指し、広く普及していくことが大事。釧路根室の教員の平均年齢は若く、学校の先生も学ぶ必要がある中で、負担感なく進めることが求められる。学校単独でなく、開発局や地域を超えた連携など、課題意識を共有しながら進めていければ。

大野氏:インフラを作って終わりの時代ではない。作ったものがどう社会で活かされているのか地域と一緒に考えていく姿勢が求められる。土木とは市民のための技術であり、生産活動がなされて初めて意味を成す。その意味で土木は空間をプロデュースできるクリエイティブな仕事である。ぜひ、若い方に興味を持っていただきたい。

水野氏:北海道は歴史がないから語れないというが、本州の人々はその土地土地の歴史を雄弁に語る。その姿からは強烈な土着感を感じる。先ほどの開発局さんの資料を見るとインフラの見方も変わってくる。知らないことで、魅力に気づいていないことは残念なこと。近い将来どこにいても働ける時代が来た時に、選ばれる地域でありたい。

新保:教科書にも北海道の歴史が充分取り上げられていないが、やはり「知る」ことから始まる。未来の北海道創りを皆さんと共に進めていきたい。