ほっかいどう学連続セミナー:第2回オホーツクの魅力再発見

世界につながるオホーツクの魅力とそれを支えるもの

令和2年2月22日(土)、当法人の中核的な活動の一つとして北海道各地区で開催する「ほっかいどう学連続セミナー」の第2回セミナー「オホーツクの魅力再発見」が開催されました。約100名の方にご来場いただき、活発なディスカッションが行われました。
(※文中の役職は開催日当時のものです。)

開会にあたり、主催者を代表して、新保元康理事長より開会の挨拶、国土交通省北海道局参事官 谷村昌史 氏、北海道教育庁オホーツク教育局局長 伊賀治康 氏より来賓挨拶が述べられました。

1.開会挨拶


特定非営利活動法人 ほっかいどう学推進フォーラム 理事長 
新保 元康

空知に次いで2回目となる「ほっかいどう学連続セミナー」をここオホーツクで開催できたことは大変喜ばしく、関係者の皆さまに心より御礼申し上げたい。実は「ほっかいどう学」は、第8期北海道総合開発計画策定の際に、ここ網走で提言させていただいたのが始まり。北海道のことを大人も子どもも知らないのでは、という問題意識からスタートしている。本日はまちづくり、学校教育関係者が一同に会した珍しい場でもある。この機会にネットワークをつくり、オホーツクの魅力とそれを支える人々の営みを皆さまと一緒に勉強したい。

開会挨拶 新保 元康 理事長

2.来賓挨拶


国土交通省北海道局参事官 
谷村 昌史 氏

国土交通省は社会基盤を整備、維持管理する機関として北海道総合開発計画に沿って様々な事業を推進している。同開発計画の中では、北海道が国に貢献するためには、ハード整備だけでなく人材育成も重要であるという観点から、北海道の地理、歴史、文化などの学びを通じて地域のことを考えるきっかけづくりを、ということで「ほっかいどう学」が盛り込まれている。本日のセミナーが新しい知見の発見や明日からの行動のきっかけとなれば有難い。本日は皆さんと一緒に北海道のことを勉強させていただきたい。

来賓挨拶 谷村 昌史 氏

3.来賓挨拶


北海道教育庁オホーツク教育局局長 
伊賀治康 氏

「ほっかいどう学」は北海道の未来づくり、人材育成に向けて北海道開発局とも連携して取り組んでいるものである。オホーツク管内には2万6千人の児童生徒がいる。少子化等様々な課題がある中で、地域の将来を支える人材の育成がますます重要になってきている。オホーツクは様々な魅力あふれる地域であり、本日のセミナーがオホーツクの新たな魅力を発見し、子どもたちに伝えていく良い機会になると思う。セミナー関係者に敬意を表し、挨拶に代えさせていただきたい。

来賓挨拶 伊賀 治康 氏

続いて、ほっかいどう学推進フォーラムの設立経緯、目的、活動内容について、原文宏事務局長より報告がありました。

4.ほっかいどう学推進フォーラムについての説明


特定非営利活動法人 ほっかいどう学推進フォーラム 事務局長 
原 文宏

令和元年10月に設立シンポジウムを開催させていただき、NPOフォーラムの活動を開始した。本フォーラムは行政、地域、学校をつなぎ、幅広く「ほっかいどう学」を展開していく上での推進母体としての役割を担っている。今後は認定NPOを目指していく中で、より多くの方にご参加いただき、ほっかいどう学を推進していきたい。

続いて、田口桂 氏(オホーツク流氷館代表取締役社長)、富永雄一 氏(農事組合法人 網走農場)、佐伯浩 氏(一般社団法人寒地港湾技術研究センター代表理事会長)、髙橋一浩 氏(国土交通省北海道開発局 網走開発建設部次長)より、オホーツクの多様な魅力についてご講演いただきました。

5.流氷の魅力を語りつくす!なぜ、世界から流氷が注目されるのか。


田口 桂 氏
(オホーツク流氷館代表取締役社長)

地域の歴史を知ることは、地域の誇りを取り戻すこと

流氷の魅力を「景観」、「自然」、「海洋資源」の3つの視点からお話したい。まず「景観」:知床岬とともに約50kmの海が流氷に埋め尽くされる景色は圧倒的な自然美である。

「流氷観光砕氷船 おーろら」乗船の際には、是非、HPやライブカメラで流氷の様子を確認した上で絶景を堪能していただきたい。次に「自然」:北半球の凍る海の中では一番南に位置しているオホーツク海でなぜ、流氷が見られるのか。

それは①シベリア降ろしの冷たい風が海面を凍らせる。②閉じられた海であるため海水の出入りがない。③アムール川からの大量の真水が塩分の少ない表層水を作りだし、そこに対流が起こるので凍りやすい。という3つの偶然が重なったためである。

最後に「海洋資源」:なぜ、オホーツク海の海洋資源は豊富なのか。これは、流氷が豊富な植物性プランクトンを閉じ込めたまま南下し、春になり植物プランクトンが大増殖した状態で食物連鎖がスタートするためである。また、流氷は凍る際にブライン(塩分の濃い海水)を排出し、海洋のダイナミックな循環を生み出すことも要因となっている。

このように様々な恵みをもたらす流氷であるが、地球温暖化によって減少傾向にある。健康な地球を未来に引き継いでいかなければと感じさせられる。

田口 桂 氏
スライド

6.GPSガイダンスシステムで変わるオホーツクの農業
  ~世界と闘う日本の農業の今~


富永 雄一  氏
(農事組合法人 網走農場)

網走農場は前身である第24営農集団であった昭和30年代頃から農家が共同で機械を購入する営農集団体系をとっている。本日は現在5台使用しているGPSガイダンスシステムについて、その使い方やこれからのあり方についてお話させていただきたい。

網走農場の耕作面積は360町、東京ドーム72個分ほどの面積を11名で作業している。主な作物はばれいしょ、小麦類、てんさい、玉ねぎ、生薬などであり、GPSを搭載した機械で苗植えなどを行っている。

農業の現状としては後継者不足、人手不足、気象変動、収入減少などがあるが、人手不足については、GPSガイダンスの活用により、負担軽減、効率向上ができている。暗い時間帯や傾斜などで先を見通せない畑でもGPSによってほとんどハンドルを握らなくても作業ができる。

一方、電波が拾えずGPSが使えないときの対応など、頼りすぎることには心配もある。今後の活用方法としては、GPS同士の連携、自動運転化、人口衛星を活用した圃場管理などが挙げられる。

今後の農業の在り方としては、安全安心な生産物を消費者に届けること、そして、国内自給率の向上と労働力の確保であり、そのためには子どもたちに農業の楽しさを知ってもらうことが重要であると考えている。

富永 雄一 氏

スライド

7.世界初のアイスブームとは何か 
  ~サロマ湖のホタテを守る技術の秘密~


佐伯浩 氏
(一般社団法人寒地港湾技術研究センター代表理事会長)

流氷は恵みをもたらす一方で、様々な被害も引き起こす。この流氷被害からサロマ湖のホタテを守る技術、「アイスブーム」についてお話したい。

北海道を10の海域に分けると、北見管内が突出して漁獲量、売上高ともに高く豊かな漁場であるが、サロマ湖は元々牡蠣以外の魚の生育には向かない水質だった。それが昭和4年に現湖口を開削したことを機に、湖内が一気に塩水化し、海洋環境が一変した。その結果、サロマ湖はホタテの稚貝の供給地となり、余った稚貝は外海に放流し、外海からも魚が入ってくるという非常に豊かな漁場となった。

昭和24年には漁業組合が設立され、600名を超える組合員がいた。ところが、昭和49年に流氷が入ってきて養殖施設に甚大な被害をもたらした。その後も流氷が来るたびに昆布が流されたり、貝が圧死したり、船の出入りに支障をきたすなど、様々な被害が報告された。

こうした流氷の侵入を防止、制御する技術として開発されたのが「アイスブーム」である。流速の違いによって型が異なり、流速の遅い場所にはロープに浮体を取り付けた一般型を、流速の早い場所には一般型に改良を加え下部にネットを取り付けた特殊型を使って流氷の侵入を防いでいる。安全性や景観上の配慮などの様々な条件のもとで実験を重ね開発に至った。

佐伯 浩 氏
スライド

8.網走湖の汽水環境を守る


髙橋一浩 氏
(国土交通省北海道開発局 網走開発建設部次長)

網走湖は道内8番目の広さを有する汽水湖である。1万年前は海面水位が今より10mほど高く、能取湖とオホーツク海に通じた海水であったが、地表の上昇が続き汽水化が進み、その後、下流の改修や事業の関係で湖の底に塩分が入り、現在の二層構造の湖となった。

網走湖の大きな特徴は、湖底が無酸素状態という点である。そのため、強風で波が発生すると、無酸素の塩水層が上昇し、青潮の発生を引き起こすという問題、また、高度な栄養塩類が蓄積され、それが塩水層に吸収されることで、アオコの発生を引き起こすという問題がある。

こうしたことから昭和62年から水環境改善に向けた技術的な検討が開始され、平成16年には流域対策を含めた総合的な水質改善施策として清流ルネッサンスⅡを策定し、具体的な数値目標を定め、水質保全、改善に向けた技術的な検討を進めている。

その一つが平成29年から本格運用している網走川大曲堰である。ゲートによって、海水流入を抑制し、網走湖の塩淡境界層上昇を防ぐ働きを担っており、観測データからは青潮発生の頻度が減少していることが確認されている。

引き続き、網走湖の水質改善に向けて、関係機関との情報共有、取組を連携し、データ収集、意見交換を行っていきたい。

髙橋 一浩 氏
スライド

続いて、「まだまだ眠るオホーツクの宝 子どもに教えたいのはこれだ」と題して、田口桂氏、富永雄一氏、佐伯浩氏、高橋一浩氏、山田浩氏(湧別町立中湧別小学校校長)の5名のパネリスト、コーディネーター新保元康理事長によるパネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッション
「まだまだ眠るオホーツクの宝 子供に教えたいのはこれだ」


●パネリスト紹介
〇 田口 桂 氏(オホーツク流氷館代表取締役社長) 
〇 富永 雄一 氏(農事組合法人 網走農場)
〇 佐伯 浩 氏(一般社団法人 寒地港湾技術研究センター代表理事会長)
〇 髙橋 一浩 氏(国土交通省 北海道開発局 網走開発建設部次長)
〇 山田 浩 氏(湧別町立中湧別小学校校長)

●コーディネーター
〇 新保 元康(NPO法人 ほっかいどう学推進フォーラム理事長)

■セッション1:講演に対する感想
〇田口桂氏(オホーツク流氷館代表取締役社長)
網走の産業の特殊性を理解しているつもりだったが、農業の実態や流氷の負の側面をコントロールする技術も見えていなかった。地域に暮らしている人間が見えていないものがあるということを改めて感じた。

〇富永雄一氏(農事組合法人 網走農場)
網走湖の水質管理については農家として耳の痛いところである。農業と漁業の関係は難しい面があるが、植林など、協力していきたい。また、農業者の集まりの中では、北海道は日本の食糧基地であり、守っていかなければという気概をもっている。農薬を使わざるを得ない事情もあるが、成分が薄目の農薬、微生物を使った農薬など、新しい技術もできている。

〇佐伯浩氏(一般社団法人寒地港湾技術研究センター代表理事会長)
国際競争の中で、水産業、農業などの一次産業が生き残っていけるのか、守ることができるのか。どのように位置づけることが日本にとって有利なのか考えなければならない。

〇髙橋一浩氏(国土交通省北海道開発局 網走開発建設部次長)
漁業者、農業者が本音で話し合えるのはオホーツクの特徴である。開発局としては、インフラ整備だけではなく、農業、漁業など様々な分野に貢献したいと改めて感じた。

〇山田浩氏(湧別町立中湧別小学校校長)
オホーツクには良いイメージをもっていたが、まだ知らないことが多いと気づかされ、さらに勉強したいと感じた。教員の先生にはぜひ、本物の学びとして、子どもたちにオホーツクの魅力を実感させてほしい。

■フロアから
〇建設業関係者
農業、水産、建設に対しては保護者世代に良いイメージがない。後継者不足も問題となっている今、親御さんと一緒に学べる機会があれば業界のイメージも変わってくるのではないか。

〇教育関係者
ホタテ、流氷など、当たり前すぎて価値を知らなかった。地元の子どもたちに感じさせなければと思う。学校では3,4年で「地域の歴史」、5年生で「地元の産業」を習う程度で、過去のことしか教えていない。未来のことを子どもたちに伝えていくことが大事。地域と連携し、地域に貢献できる子どもたちを育てるために、ビジョンを共有し、学校もマネジメントの工夫もしていきたい。

〇建設業関係者
業界のイメージアップキャンペーンの一環で、かなりの費用をかけて護岸工事を子どもたちに見せる授業を行った。災害対策としての護岸工事には環境に悪いイメージがあるが、生き物も守る護岸工事ということで、子どもたちの見方も変わった。ただ、小学校にそういった見学会を通知しても関心をもってもらえないことが多い。どういうPRが良いか、情報共有できればと思う。

■セッション2:地域、行政と学校との連携
〇髙橋一浩氏(国土交通省北海道開発局 網走開発建設部次長)
学校では教えることがたくさんあり、何を選択するかという判断の難しさがあると思う。我々にはいくらでも(教材となる)題材はあるので、こういった機会を通じて先生方にアプローチできるというのはありがたい。

〇佐伯浩氏(一般社団法人寒地港湾技術研究センター代表理事会長)
広大な北海道の物流はコストが高く環境負荷も大きい。オホーツク地域の将来を長い目で見ると、コストが安い船の活用など、環境整備を考えていかなければ新しい企業も来てくれない。

〇富永雄一氏(農事組合法人 網走農場)
中学生を対象に農業の一日体験を受け入れている。網走市ではコミュニティスクールを進めている中で、様々な業種が学校と関りを持つことが大切ではないか。

〇田口桂氏(オホーツク流氷館代表取締役社長)
学校が忙しい中で、優先順位をどこにおくか、学校側も判断が難しいと思う。すべての業界は教育に貢献したいと考えていると思う。例えばコミュニティスクールのような形で、先生に学んでいただけるのが望ましいが、それが難しければ、我々が先生方の研修会に出向くこともできる。

〇山田浩氏(湧別町立中湧別小学校校長)
面白い題材がたくさんあったが、どう教えるか、教材づくり含め難しい。お互いが分かり合える場を持つことが大事と感じた。業界の方も協力したいという思いを持っていることを知ることができた。

パネリスト 田口 桂 氏
パネリスト 佐伯 浩 氏
パネリスト 山田 浩 氏
フロア、登壇者とのディスカッション
パネリスト 富永 雄一 氏
パネリスト 髙橋 一浩 氏
コーディネーター 新保 元康 理事長
フロア、登壇者とのディスカッション