開催報告

第5回ほっかいどう学シンポジウム

教育と土木でつくる北海道の未来
-高校生、動く、考える!!-

7月28日(金)に5回目となるシンポジウムが開催されました。今回は「教育と土木でつくる北海道の未来-高校生、動く、考える!!」をテーマとして、高校の動きに着目。基調講演では、林正憲 氏(前北海道札幌北高等学校長)をお招きし、社会に開かれた学校教育の重要性を講演いただきました。続くパネルディスカッションでは、佐藤豊記 氏(北海道高等学校遠隔授業配信センター次長)、萩原一利 氏(帯広建設業協会・萩原建設工業(株)代表取締役社長)、近藤里史 氏(空知建設業協会・(株)砂子組専務取締役)にご登壇いただき、企業と学校との連携の先進的な取り組みについて話題提供いただきました。北海道の人材育成に向けて、それぞれの立場でできることを改めて考える場となりました。

来賓挨拶


柿崎 恒美 氏 国土交通省北海道開発局 局長

本日は「教育と土木でつくる北海道の未来」をテーマに、多くの分野の方々が集まるシンポジウムが開催されるということでお祝い申し上げたい。以前、倉内副理事長が「子どもたちが、自分たちが生活している北海道の歴史や文化や営みを知って、地域に愛着を持つことが非常に重要だ」というお話をされていたことが印象に残っていた。これまで自身が携わってきた河川行政、治水行政もそれにも通じるものがある。石狩平野も大規模な治水事業によって現在の豊かな耕地が開かれた。そういった歴史を知るということが 非常に重要だと感じる。本州では総合学習の一環で教育機関の方から治水の歴史を紹介してほしいという話をいただくことはあるが、「ほっかいどう学」のように地域の皆さんが一緒に参画されている活動は北海道だけではないか。歴史が一番新しい北海道において、その歴史を大事にするという視点は非常に興味深く、本日は大いに勉強させていただきたい。

▲来賓挨拶 柿崎 恒美 氏

基調講演


林 正憲 氏 代々木ゼミナール教育総合研究所・主幹研究員

高校教育「と」社会「と」ほっかいどう学

北海道の高校は統廃合による高校の減少、広域分散型の配置、小規模効果など特有の課題を抱えている。先生の成り手がいないということも大きな課題である。社会全体で見ると経済問題、人口減少、国際的に見た時の精神的な幸福度の低さ、ジェンダーギャップ等、様々な課題がある。社会の仕組みや教育全体の仕組みでこうした問題に立ち向かうことは一つの大きなテーマであり、国も努力して改革を進めている。その一つがGIGAスクール構想である。先生がICTを使って授業することと、生徒の机の上に端末があるというのは全く違う。高校教育でも「個別最適な学びと協働的な学び」がキーフレーズとなっており、これからの学び方は大きく変わるはずである。

高校教育だからできることは何か。赴任した高校での活動をご紹介したい。枝幸高校では「負けてたまるか」を合言葉にきめ細かい進路対応、地域の教育資源を活用した学び、若手を生かす取り組み等を進めてきた。野幌高校では、「どんな人にも組織にも良さと課題がある、良さは磨き、課題は真摯に取り組む」という理念のもと、自身が先頭となり挨拶日本一や企業交流会、生徒を生かすルール作りなど果敢にチャレンジした。札幌北高校では「よりよい社会を創る人になる」ことをスクールミッションに掲げ、全日、定時制問わず、生徒の視野を広げるための様々な活動を推進してきた。

今、日本社会は様々な観点から赤信号が灯っている。この社会を変えていくのは、社会に出る前の高校教育ではないか。ルールに従うのではなく、自分で考えて振る舞える倫理の力、身近なところからでも社会を変えていける力、自分の学びをアップデートしようとする力、そういった力を高校教育で身に付けさせたいという想いでこれまでやってきた。

高校教育の話をしてきたが、「ほっかいどう学」でしかできないこともある。「高校教育だからできること」、「ほっかいどう学だからできること」、「あなただからできること」、これらを掛け合わせれば可能性は無限大に広がる。教育課程には「総合的な探究の時間」、新教科「地理総合」、北海道の自然環境、建築土木を扱う「理科」など、よりよい社会を創るための教育と「ほっかいどう学」とのつながりは大きい。人口減少、経済、社会、政治、教育、環境等極めて困難な課題が明るみになる中、建前ではなく本音で話すしかない。ある意味、真剣勝負ができる良い時代ともいえる。形式や前例にとらわれず、学校と社会が互いにアプローチし、つながる、つなげることが必要。「ほっかいどう学」をはじめ、既に活動は始まっている。私自身も面白い人々とどんどんつながりながら活動していきたい。

▲基調講演 林 正憲 氏

パネルディスカッション


パネリスト

林 正憲 氏
代々木ゼミナール教育総合研究所 主幹研究員
萩原 一利 氏
帯広建設業協会・萩原建設工業(株)代表取締役社長

コーディネーター

新保 元康 理事長
佐藤 豊記 氏
北海道高等学校遠隔授業配信センター次長
近藤 里史 氏
空知建設業協会・(株)砂子組専務取締役

自己紹介・活動紹介


佐藤氏:札幌から小規模校向けに授業を配信する「遠隔授業配信センター」で活動をしている。過疎地で生徒数が少なく、教員確保も難しい道立の31高校に対し、23名の教員が週235時間の授業を配信している。その一つをご紹介したい。地元の建設業者である西村組様の協力のもと、佐呂間高校の生徒に遠隔授業を実施した。地元の高校を卒業した20代の女性職員からは、流氷の侵入を制御する「アイスブーム」を整備し、建設技術が地元のホタテ産業を守っているお話や、建設業への志望動機や仕事内容など2時間にわたってお話をいただいた。生徒からは「とても良い経験になった」「もっと知りたくなった」などの感想をもらい、地元のことを学ぶ授業の意義を感じた。

萩原氏:「帯広二建会」という建設業の若手経営者から成る組織で活動している。こうした組織は全国各地に存在するが、帯広二建会は高校とのつながりがあることが特徴である。その一つが十勝に現在20校程度ある高校1年生を対象としたアンケート調査である。人材不足が課題となっている建設業において、まずは現状分析をしようというのがきっかけで4,5年続いている。アンケートでは地元が好きか、建設業界へのイメージなどを尋ねている。もう一つが高校生向けの建設業に特化したクイズ大会「コンストラクション甲子園」である。各高校に営業活動を行い、20組40名の応募があった。今年も開催予定でぜひ盛り上げていきたい。

近藤氏:農業と建設業をつなげる高校生の人材育成に取り組んでいる。建設団体の指導のもと、建設団体が持つICT技術を活用しながら農業、土木を深く学んでもらうというコンセプトで2018年から岩見沢農業高校との連携がスタートした。2019年からは建設業界全体での取り組みとして、空知建設業業界との連携となった。学校で習う測量学、施工学等とICT技術との比較をすることを狙いに、無人トラクターの走行実験など様々な授業を実施している。生徒からは「学校で習ったことと、実際はここまで違うのか」といった感想が聞かれ、手ごたえを感じている。国交大臣賞はじめ活動が評価されたこと、建設業界以外との交流が生まれたことが大きな収穫。

各発表を聞いての感想


佐藤氏:「コンストラクション甲子園」は初めて聞いた。営業活動をされたということだったが、学校に建設の方が入っていくことに抵抗はなかったか。

萩原氏:建設業に興味を持ってもらいたいということが出発点で始めた活動だったが、120名の参加者のうち7~8割が普通科高校の生徒だったことは一つの成果と感じている。

近藤氏:岩見沢農業高校は当初から非常にオープンだった。学校の勉強だけでは就職した際に大きなギャップを感じるという話をすると、非常に理解し、柔軟にカリキュラムを組んでくれた。一方で、学校と連携していくためには、教える側の体制も重要。建設側がしっかりと人材を育成できているか、真摯な姿勢が必要。

林氏:学校側に余裕がなく、結果的に社会との壁を作っている側面はある。一方で、先生方には子どもたちにもっと社会のことを学んでほしいという意識はある。「総合的な探究」の時間はチャンスであり、先生がすべて指導するのではなく、生徒が問いを立て、調べ、そして、意義を考えさせるような場づくりが重要。

佐藤氏:ICTによって学校も変わりつつある。授業の全てを使わずとも、オンラインでスポット的に専門家に話をしてもらうこともできる。外部の専門の方に出前授業としてすべてお願いするのではなく、教員自身が面白がりながら一緒に授業をつくり、子どもたちとともに学ぶことが大事。

新保氏:子どもの学びのために門を広げた結果、先生も学ぶ機会になっているということである。

萩原氏:建設業のイメージを高校生にアンケートで聞くと、長時間労働、3Kなどが選ばれるかと思っていたが、「建設業をよく知らない」という回答が最も多かった。「場づくり」という話が出たが、いかに知ってもらう場をつくるか、が大事。

近藤氏:学校の空気が変わりつつあることは感じる。岩見沢農業高校の生徒から連携授業は非常に喜ばれた。授業期間の合間にも機械の操作等、会社に問い合わせがくるほど関心を持って学んでくれた。一方で、高校生が様々な認定を受けるためには多くの要件が求められ、そこが動かせないために、現状のカリキュラムを変えられないという話は聞く。

新保氏:こうした活動が下支えとなり、農業高校から空知建設業界に就職しているケースも少なくないということは驚きである。

今後に向けて一言


近藤氏:学校では失敗も経験させてほしい。レールを敷けば確実だが、新しいものに挑戦しようという想像力は育たない。企業も同じ。学校教育との連携は継続していきたい。

萩原氏:道外の若手建設関係者と話をすると、北海道が一番高校とつながっていると感じた。この強みはこれからも維持していきたい。一方で、十勝の高校生へのアンケートでは、7~8割の生徒が「十勝が好き」と答えるが、卒業後の進路として地元に残りたいという生徒は3割しかいない。地元を好きになってほしい。そのために取り組んでいきたい。

佐藤氏:学校だけでは教育は完結しない。学校現場にぜひ積極的に入っていただきたい。

林氏:つながり、つなげることをやっていきたい。知れば、体験すれば生徒は変わっていく。

閉会


認定NPO法人 ほっかいどう学推進フォーラム  副理事長 倉内 公義

本日は大変面白いお話を聞かせていただいた。登壇者の皆様からは何よりも熱意を感じた。子供のため、社会のため、熱意をもって取り組んでいるからこそ面白い。学校の先生とお話させていただくと、改めて、教育は社会を支える「インフラ」だと感じる。開発局の取り組みとしては「みち学習」の名で学校の先生と開発局職員とが接点をもっており、教材開発の中で先生方がこれは難しいのでは、と思われていることが、案外、開発局と組むと簡単に出来るということが多々ある。ほっかいどう学としては、色々なジャンルの方のインターフェースとして活動を推進していきたい。皆様のご支援、ご協力、ご理解が何よりも活動の原動力になる。本日は誠にありがとうございました。

▲閉会挨拶 倉内公義副理事長