ほっかいどう学連続セミナー:第10回

宗谷再発見

令和6年6月29日(土)、当法人の中核的な活動の一つとして北海道各地区で開催する「ほっかいどう学連続セミナー」の第10回連続セミナーが開催されました。
(※文中の役職は開催日当時のものです。)

開会挨拶


特定非営利活動法人 ほっかいどう学推進フォーラム 副理事長 倉内 公嘉

本日はお忙しい中、週末の貴重な時間を割いてご参加いただき、誠にありがとうございます。また、連続セミナーに出演していただいた4名の方々にも心から感謝申し上げます。私どものNPOは、今年で創立5周年を迎え、6年目に突入いたしました。この間、ほっかいどう学の普及を目的に活動を続けており、ほっかいどう学新聞を発行してきました。今回、第16号では稚内の再生可能エネルギーに関する取材をさせていただく予定です。会員数は法人、個人合わせて300を超え、応援していただいている方々に支えられ、活動を進めています。

北海道の発展の歴史はインフラの歴史そのものであると考えています。インフラを学ぶことで、北海道の歴史や風土、人々の暮らし、産業の成り立ちが見えてくると思います。特に、北海道は厳しい雪や寒さを克服しながら生活を支えるために、インフラの維持・管理が欠かせません。これは北海道人として知っておくべき大切なことだと思います。そのため、みち学習検討会を通じて、教育現場で子供たちにどのように教えるかを全道の100名を超える先生方と一緒に検討し、実際に授業で伝えています。また、GIGAスクール時代に向けて、動画のプラットフォームを構築中で、教育現場で活用できるコンテンツを提供していく予定です。これからもほっかいどう学の推進のため、皆さまのご支援を賜りますようお願い申し上げます

「北海道の子どもにほっかいどう学を!」


特定非営利活動法人 ほっかいどう学推進フォーラム 理事長 新保 元康

北海道の発展の歴史は、インフラの発展そのものであると感じています。例えば、稚内からサハリン(樺太)へ航路が開かれていた「稚泊航路」。これは大正12年から昭和20年まで、鉄道と鉄道をつなぐ船の航路ですが、子どもはもちろん、大人も知らない人が多いのではないでしょうか。しかし、この「稚泊航路」の存在が示しているのは、北海道とサハリンが鉄道と船で結ばれ、宗谷がどれほど重要な地域であったかということです。「宗谷が、北海道が、日本を支えた。」という意識が少ないことが、もどかしいと感じます。

北海道は、寒冷で積雪が多く、広大な土地を持っていますが、それを克服するためのインフラが発展してきました。インフラは単なる道路や鉄道だけではなく、それを支える人々の暮らし、産業にも深く関わっています。北海道の人々は、厳しい環境の中で、道や鉄道を作り上げ、生活を支えてきたのです。特に、明治時代に入ってからは人口が急増し、その増加に応じて、食料を供給するためのインフラも発展しました。宗谷地方や樺太の水産資源や石炭などの資源は、日本全体の発展に大きく寄与してきました。これこそが、「北海道が日本を支えてきた」という証拠であり、その裏にあるのがインフラです。現在も稚内は再生可能エネルギーの分野で大きな役割を果たしつつあります。

教育の面でも、北海道の役割を子どもたちにしっかりと伝えていくことが重要です。北海道総合開発計画にもほっかいどう学が盛り込まれています。現在、GIGAスクール構想の下で、デジタル教材を活用して、北海道に関する学習を深めることができます。そのためには学校だけでなく、地域全体でインフラと教育の連携を深めていく必要があります。子どもたちが北海道の魅力を知り、愛する心を育んでいくことは、北海道の未来にとって大きな力になると信じています。

本日は皆さんと一緒に議論することを楽しみにしています。どうぞよろしくお願いいたします。

発表① 改めて知ってほしい宗谷インフラの底力


北海道開発局稚内開発建設部 次長 甲斐 明 氏

宗谷の成り立ちは、1685年に松前藩が開設した「宗谷場所」に始まります。江戸時代、宗谷は北海道の中でも辺境の地で、アイヌとの交易や北前船による物流が主な活動でした。江戸後期、ロシアとの接触が増え、幕府は宗谷に兵を派遣し、極寒の地での越冬には多くの犠牲が伴いました。

明治時代に入ると、北海道開拓が本格化し、宗谷もその一環として発展します。特に大正時代、稚内港が重要な交通拠点となり、鉄道が稚内に到達しました。明治38年に南樺太が日本領となり、稚内は資源豊富な北の島への拠点として重要性を増しました。昭和11年には北防波堤ドームが建設され、安全な航行が可能となり、宗谷は鉄道と海運の交差点として栄えました。

戦後、宗谷地域は復興の時期を迎えます。漁業の復興と遠洋漁業の発展が地域経済を支えましたが、昭和50年代に入ると200海里問題の影響で漁業は縮小しました。その一方で、交通インフラの整備が進み、鉄道から自動車への輸送手段のシフトが進みました。特に、道路整備が急務となり国道40号の舗装工事が進められました。昭和30年代、悪路や湿地帯に悩まされていたが、改良が進むことで交通の利便性が向上しました。

現在、北海道縦貫自動車道の整備によって道路の「高速化」は順次進められてきていますが、いまだ最北端までつながっていません。今後の発展には地域住民の声や協力が重要です。また、国土交通省では「国土強靭化」に向けた対策を数々実施しています。防雪柵の設置などにより、冬期の吹雪による通行止め対策が進み、安全な道路利用が確保されています。このように、宗谷地域のインフラは、時代の変遷とともに発展し、地域住民の生活を支える重要な要素となっています。これからも地域特性に合ったインフラ整備によって将来にわたり安心・安全な通行を確保する努力を続けてまいります。

発表② 修学旅行でみち学習に挑戦


利尻町立仙法志小学校 校長 山本 真司 氏

「みち学習」を検討する中で、礼文島内よりも、より多くの学習素材がある場所で実施した方が効果的ではないかと考え、修学旅行を活用して、稚内から旭川までの移動中に取り組むことにしました。

修学旅行は、礼文島の2つの小学校(礼文小学校、船泊小学校)の合同で行われ、普段はあまり交流のない子どもたちと一緒に学ぶ機会を作りました。修学旅行のルートは、稚内から旭川まで40号線を通り、道の駅に立ち寄りながら進んでいきます。これまでの修学旅行では、移動中はバスガイドのレクリエーションを行うことが多かったですが、今回はその移動時間をみち学習の場に変えることにしました。

事前学習として、合同レクリエーションの時間を活用し、「みちクイズ」を行いました。クイズ形式で学ぶことで、他校の児童とも交流が深まり、道に対する興味や理解が高まりました。

修学旅行中、道の駅での振り返りシートを使用して、実際に見たものを写真と照らし合わせながら学習を進めました。このシートは、子どもたちが自分で見つけた情報を記入することができ、学習の深化に役立ちました。また、道の駅での立ち寄りが単なる休憩時間から学びの場へと変わり、移動中の時間が有意義に使えるようになりました。

修学旅行を通じて、子どもたちの道に対する知識が深まり、事前学習で見たものが実際に目の前に現れたときの反応も良かったです。特に、道の駅での学習を通して、実際に見ることと事前に学んだ知識を結びつけることができ、学習効果が高まりました。

このみち学習の取り組みは、修学旅行の移動時間を活用した新しい学習方法として非常に有意義だったと感じています。これからも他の学校でも活用できるよう、さらに充実した内容にしていきたいと思います。修学旅行という貴重な時間を、学びの場に変え、子どもたちの成長に繋がったことを嬉しく思います。

発表③ 上川みち学習の取り組みについて


愛別町教育委員会 上川みち学習検討会 座長 蟹谷 正宏 氏

上川地区のみち学習は、令和2年度から本格的に取り組みを開始しました。地域社会と関わりながら、子どもたちが身近な事象から学びを深めることを目指しています。具体的には、旭川開発建設部の協力を得て、道路の除雪作業や矢羽根の役割について学ぶ機会を設けると、国道と道道と町道の違いも分からない子どもたちでしたが、非常に興味を持ち、質問が相次ぎました。学習が生活と密接に結びつく大切さを実感しました。また、デジタル教材や動画を活用した取り組みも行いました。また、旭川では、北海道の国道や鉄道、高規格道路などの地図をデジタル化し、子どもたちがタブレットを使って主体的に学習を進める形にしました。この方法は、子どもたちの学びを深めるうえで非常に効果的であると感じました。富良野では、観光シーズンの交通渋滞問題に着目し、開発局から提供いただいた実際の道路の写真で渋滞の前後を比較しながら学習しました。子供たちは「なぜ渋滞が解消されたのか?」という疑問に迫り、道路整備の重要性を理解しました。動画制作にも取り組み、3分程度の動画を作成し、子供たちが楽しみながら学べる教材を提供しました。実際の除雪作業などを動画で学ぶことができ、理解がより深まりました。来年度以降も、このような動画教材を増やし、子どもたちがより興味を持って学べる環境を整備していきたいと考えています。

持続可能なみち学習の取組のポイントとしては、まず、子どもたちが「なぜ?」と思うような疑問を引き出すことが大切です。これにより、主体的な学びが促進されます。次に、新しい実践を行う際には、既存の優れた実践をブラッシュアップし、教職員の負担を軽減する工夫が必要です。これによって、より多くの子どもたちに学びの場を提供できると考えています。今後の課題としては、みち学習の実践をさらに広め、地域全体での協力を深めることが挙げられます。

パネルディスカッション

続いて登壇者の皆様に加え、稚内市立南小学校の安田先生をお迎えしてパネルディスカッションを行いました。


  • コーディネーター 新保
  • パネリスト
  • 北海道開発局稚内開発建設部 次長 甲斐 明 氏
  • 利尻町立仙法志小学校 校長 山本 真司 氏
  • 愛別町教育委員会 上川みち学習検討会 座長 蟹谷 正宏 氏
  • 稚内市立南小学校 教諭 安田 小春 氏

コーディネーター 新保:まず皆様からそれぞれご発表に対するご感想をいただけますか。

安田氏:礼文の道の駅の取り組みを聞いて、移動を楽しくする工夫が素晴らしい。その土地ならではの魅力を知ることも、北海道全体の魅力を知ることどちらも、子どもたちにとってとても大切だと感じる。

山本氏:甲斐次長のお話からは宗谷の厳しい環境を改めて感じ、礼文島で道路を作る苦労を実感した。また、蟹谷先生の発表からは、生活体験とみち学習を結びつけることで、社会に開かれた教育課程の理念を感じた。子供たちが一生懸命取り組む姿が写真を通して伝わり、みち学習が身近で子どもたちの興味を引く題材であることを再認識した。

蟹谷氏:上川地区社会科連盟では、社会科の副読本の共通の単元を作成した。教員が実際に現地を取材した写真を使用して各市町村に提供したところ好評を得た。この取り組みを続け、さらに多くの現場の先生方を支援したいと思う。

甲斐氏:山本校長先生の話を聞いて、小学校の修学旅行を思い出した。トンネル工事現場など、開発局はインフラツアーもやっているので小学生にもぜひ見学に来ていただければ。蟹谷先生のお話はNPOのプラットフォームの話にもつながった。

山本氏:修学旅行でのみち学習は、礼文で2回目になるが、まずは「やってみよう」とスタートした段階で、発展途上の内容である。今後は移動中に事前学習で見たものを実際にどれだけ見つけられるか、また、通る道順の各場所に何があるかを事前に予告するなど、予習と実際の体験をつなげることで、みち学習がさらに深まると感じる。

コーディネーター 新保:それぞれの立場から宗谷の子どもたちに知ってほしいこと、現場での困りごとなどお聞かせください。

甲斐氏:開発局の第9期北海道総合開発計画では食、観光、脱炭素などがテーマになっており、いずれも宗谷に深く関わっている。現在、9期計を広く理解してもらうための取組として、高校生にアンケートやビデオレターなどで参画してもらうキックオフイベントを企画しているところである。

蟹谷氏:地域学習を通じて、子どもたちが親になったときに、例えば、「矢羽根って何?」といった身の回りの素朴な疑問に答えられることが重要。みち学習は身の回りから教材を発掘する宝庫である。一方で、教員が日々の学校業務をこなしながら、この知恵を絞るのは大変。この分野に関心を持っていただけるベテランサポーターを増やしていきたい。

安田氏:今日のように多くの方の話を聞くとやる気が出て、自分の学校でも取り組んでみたいと思うが、人手も足りず、時間に追われているのが現状。それでも子供たちのことを考え、より楽しい授業をどう作るかを日々悩んでいる。

山本氏:道そのものが当たり前の存在であり、普段は感謝の気持ちを忘れがちだが、道を通ることができるのは多くの人々の支えと技術によるものということも、みち学習を通じて伝えていきたい。地域学習はこれまで観光や産業に焦点を当ててきたが、道をテーマにした学びは新しい選択肢になる。離党の学校ではGIGAスクールを活用することで、場所や時間に制限されずに学習を進める可能性が広がると感じている。

コーディネーター 新保:最後のテーマになりますが、NPOでは子ども用にわかりやすく編集した動画を集約したプラットフォームを立ち上げ8月下旬のオープンを目指して進めています。こうした取り組みついてどう思われるでしょうか。

安田氏:地域学習を進める中で、教材に対する悩みが多くある。例えば、浄水場の授業で副読本を使用する際、情報が多すぎて子供たちには難しく感じられることがある。実際に現場を見学したいと思っても予算の制約で難しいこともあるため、動画があればよりリアルな学びを提供できる。また、地域学習に関してはテストが用意されている教科書に頼りがちになるため、プラットフォームには期待している。

山本氏:教材を選ぶ際、題材や発達段階に合ったものを慎重に選ぶ必要があるが、プラットフォームでは学年別に分かれており、発達段階に合った教材を簡単に選べる。動画も短く、どこを見せるか選ぶ手間も省ける。動画教材の不足を感じていたので、プラットフォームの充実は非常に期待できる。

蟹谷氏:動画は短い90秒程度に分けると効果的。バスでの現地見学が難しい場合は動画やゲストティーチャーをオンラインで活用することもできる。Zoomを通じて専門家と繋がり、質問を受ける形式も可能で、GIGAスクール対応により、学習の幅が広がっている。こうした内容をプラットフォームに載せると、さらに効果的ではないか。

閉会


特定非営利活動法人 ほっかいどう学推進フォーラム 事務局長 原 文宏

おかげさまで多くの学びと議論を深めることができました。今後もこの連続セミナーは、さらに形を変えながら続けていく予定ですので、引き続きご支援いただければと思います。山本先生の修学旅行の話を通じて、インフラが教育の一部となり得ることを再認識しました。船や飛行機、港や道路など、すべてが教材となり、地域と連携することでさらに広がりを見せると感じています。NPOを橋渡しに気軽に開発局等の専門家にもご相談いただきながら、北海道を良くするために、教育とインフラの連携を強化していきたいと考えていますので、今後ともよろしくお願いいたします。本日は本当にありがとうございました。