今年で40回目となる寒地技術シンポジウムが令和6年11月26日、27日の2日間の日程で開催されました。27日は特別セッション「ほっかいどう学」が開催され、「雪学習」に関わる4本の発表、パネルディスカッションが行われました。「雪」を教育として学ぶことの意義や可能性、そして具体的な実践方法が共有されました。
11月27日(水)15:30-17:45
座長:神林裕子氏(札幌国際大学)
発表者・パネリスト:
坂幸次郎氏(札幌市雪対策室)
種谷富茂華氏(札幌市立藤の沢小学校)
村上陽一氏(北見市立美山小学校教諭)
朝倉一民氏(札幌国際大学)
雪対策室と教育の連携について
札幌市建設局雪対策室事業課 坂 幸次郎 氏
「雪対策室と教育の連携」についてお話しさせていただきます。
札幌市では、学校教育の中で「雪」を重要なテーマにしています。雪は札幌の大切な特色であり、地域の子どもたちが雪と共生する心を育むために学ぶべき貴重な資源です。しかし、札幌の雪対策は様々な課題に直面しています。例えば、除雪従事者の高齢化や除雪機械の老朽化、除排雪経費の増大などが挙げられます。このような状況を受け、雪対策と教育を連携させることが重要だと感じ、平成27年度から「冬みち地域連携事業」を開始しました。
このプロジェクトでは、子どもたちに札幌の雪対策や冬の暮らしに関心を持ってもらうことを目的に、小学生を対象とした学習の機会を提供しています。具体的には、小学校教諭による研究授業の実践、学習指導案や教材をセットにした「雪学習パッケージ」の作成、札幌市内小学校の全教諭を対象に「雪学習NEWS」の発行(5,500部)、学習資料(副読本)の作成、そしてGIGAスクール向けのデジタル教材を作成しています。
雪学習パッケージの作成では、教材をオンラインで公開することで、他の学校の先生方にも活用していただけるようにしている他、インタラクティブな内容を盛り込んだデジタル副読本「大雪と共生する200万都市さっぽろ」を作成しています。
このように、近年の教育DXの流れも意識しながら雪対策と教育の連携を深めることで、子どもたちが地域の特色を学び、雪と共生する意識を育てることを目指しています。
小学校外国語での雪学習トライアル
札幌市立藤の沢小学校 種谷 富茂華 氏
英語専科のポジションで現在、3つの学校で英語を教えています。
昨年度から関わっている札幌市の「雪プロジェクト」では、英語の授業を通じて地域や自然、そして人々への愛を育むことができました。特に札幌の冬や雪に関連するテーマを取り上げ、英語が実生活に結び付いた言語になることを目指しました。英語を教えることに加え、地域の文化や自然についても学べる授業を行った結果、子どもたちは英語を身近なものとして感じ、積極的に学びました。
例えば、5年生では札幌の冬の魅力を紹介するために、雪についての英語を使った表現を学びました。雪が当たり前の札幌で育った子どもたちは、雪が降らない地域や国のことに驚き、異文化に対する理解も深まりました。英語を使って、自分たちの文化や地域の魅力を伝えたことで、子どもたちは学ぶ意欲をさらに高めました。
また、3年生では絵本を使って、遊びながら英語を学びました。雪の結晶をテーマに、英語で形の学習をし、結晶が六角形であることに気づき「hexagon」と言うなど、子どもたち自身の発見を英語で表現していました。
「雪」という本物の素材、北海道に根付いた素材を使ったことで、子どもたちの学びがより深まりました。このような授業を通じて、英語は単なる学科ではなく、地域や自然、そして自分の思いを伝えるツールであることを実感しました。今後は、他の専科の先生や学校の活動と連携し、より多くの子どもたちが楽しみながら学べるような授業づくりを進めていきたいと考えています。
オホーツクみち学習プロジェクト「北見市で始まった雪学習」
~4年「自然災害」の教材開発~
北見市立美山小学校 村上 陽一 氏
「オホーツクみち学習プロジェクト」における実践についてお話させていただきます。
4年生の「自然災害に備えるまちづくり」という単元では、地域における自然災害について学びます。オホーツク地域に住む子どもたちにとって雪は非常に身近でありながら、教科書では地震や水害が中心となっています。そこで日々の除雪や排雪活動が地域生活を支える重要な役割を果たしていること学ぶ授業づくりをしました。子どもたちは、除雪の仕組みやそれを支える除雪オペレーターの仕事の重要性を理解し、地域の人々の努力に感謝する気持ちが育まれました。
今年度は授業の普及に向けて、北見市内で授業の指導案や教材をまとめたパッケージを共有し、他の先生方にも活用していただけるようにしました。さらに、社会科副読本の改訂にも取り組み、雪害に関する内容を充実させました。改訂版では、QRコードを活用して資料が随時更新できるようにし、教師や生徒がアクセスしやすい環境を整えました。これにより、より多くの先生方にこの授業を実施してもらえるようになり、地域全体で雪害に対する理解が深まることを目指しています。また、公開授業を実施し、実際に授業を行った経験を他の教師と共有することで、授業の質向上を図りました。
これらの取り組みを通じて、プロジェクトが広がり、多くの先生方が地域に即した授業を行うことができるようになっています。今後も、教材の普及を進めるとともに新たな教材開発にも取り組んでいきたいと考えています。
GIGAスクールにおける雪学習の可能性
札幌国際大学 朝倉 一民 氏
GIGAスクール構想と雪学習の可能性についてお話しします。GIGAスクール構想では、すべての小中学生に1人1台の端末が配布され、デジタル技術を活用した学びが進められています。この取組の本来の目的は、時間や場所に縛られず、個別最適化された学習を行い、さらにプロジェクト型学習を通じて創造性を育むことです。しかし、現場の先生方にとっては、従来の黒板を使った授業から、端末を使った授業への移行が難しく感じられることが多いのが現実です。特に、Steam教育(科学、技術、工学、数学、芸術)など、デジタル技術を駆使した教育に対する理解や経験が少ない先生も多く、端末を効果的に活用できる方法が模索されています。
そんな中、雪学習との組み合わせが新しい可能性を切り拓くと私は考えています。例えば、北海道の雪について学ぶ際、沖縄の小学生とオンラインでつながり、雪についての情報を交換するという学びができます。物理的な距離を超えて、学んだことを異なる地域の子どもたちに自分たちの言葉で説明し、情報を共有することで学びが広がります。また、端末を活用して雪に関する美しさを調べたり、雪を使った実験を行ったりすることで、科学的な思考力を養うことができます。日本は現在、理数系教育に課題を抱えていますが、このような学びは、理数系のスキルだけでなく、創造性や問題解決能力も育てます。GIGAスクールと雪学習の組み合わせによって新たな道が開けると考えています。
パネルディスカッション
コーディネーター 神林氏:まず、子供たちが雪や冬に対してネガティブな感情を抱く理由について、教育現場の視点やご身の経験を交えてお聞かせください。その上で、どのような子供に育ってほしいか、またそのために雪学習がどのように役立つかについても各立場からの視点をお聞きできればと思います。
坂氏:子どもたちが雪を好きになり、周囲の人々を助けるような大人に成長することを願っています。例えば、高齢者に雪かきを手伝う活動などを通じて、地域社会への貢献を学び、自主的に行動する力を育んでほしいと思います。また、私たちの活動を通じて、雪に対する愛情を深めてもらい、それが広がっていくことを期待しています。
種谷氏:私は子どもたちに北海道の雪を好きになってほしいと思っています。雪が育む人間性も大切で、学校では、例えば小さなほうきを使ってランドセルの雪を払うなど、上の学年の子が自然と下の子を手助けする文化が根付いています。これは雪国ならではの教育であり、協力や助け合いの精神を育むものだと思います。
村上氏:社会科では雪の負の側面を扱うことが多いですが、雪の厳しさや除雪作業の苦労を強調しすぎると、子どもたちがネガティブなイメージを持つことがあります。そのため、除雪作業を支えるオペレーターの苦労だけでなく、その仕事が生活を支え、社会にとって重要な役割を果たしていることも伝えることが大切だと感じています。
朝倉氏:私自身、最初は雪に対してポジティブな印象を持っていませんでしたが、雪学習を通じて、主体的に学びを作る中でその魅力に気づきました。この経験から、子どもたちも主体的に学び、問題を解決することが大切だと感じます。主体的に取り組むことで、学びがポジティブなものになると思います。
コーディネーター 神林氏:今回のセッションでは、デジタル技術の活用が雪学習にどのように役立つか、特にGIGAスクール構想との関連についてお話しいただきたいと考えています。デジタルを活用した学びの可能性とその実践的な取り組みについて、どのようにお考えでしょうか?
朝倉氏:デジタル技術を活用すると、遠隔地との学びの共有や地域素材を教材化できます。雪の結晶シミュレーションやARを使った学習が可能です。生成AIについても主体的に社会に対応できる力を育むために、AIを社会に役立てる方法を考えさせる教育が重要です。
村上氏:デジタル技術のおかげで資料やデータのやり取りがスムーズになり、教員間の共有が効率化されました。また、デジタルに慣れた若い先生のアイデアを取り入れ、ベテラン教師の技術と組み合わせることで、今後さらに多様な実践が期待できます。
種谷氏:英語学習では、子どもたちが録音機能を使い、自分の声を聞きながら練習できます。失敗を恐れずに繰り返し練習できるため、自己調整しやすく、他人と話す前に自信を持つことができます。
坂氏:デジタルツールの進化を実感し、資格試験の勉強にもアプリは便利ですが、デジタルだけを知ることが子どもたちにとってデメリットになるかもしれません。デジタルとアナログのバランスを取ることが重要だと感じています。
コーディネーター 神林氏:デジタル技術を活用する際、雪の学習にどのように取り入れるか、バランスをどう取るかについて、先生方はどう考えていますか?
朝倉氏:現場では、体験学習とデジタルをうまく組み合わせるバランス感覚が重要です。例えば、実際に雪遊びをした後、その体験をデジタルツールで共有するなど、子どもたちの感情と学びを融合させることが大切です。
コーディネーター 神林氏:最後に、デジタル技術を活用した雪の学習を広げていくためには、どのようなアプローチや工夫が重要だとお考えでしょうか?
坂氏:北海道内では、地域の自治体で雪の学習が広がりつつあり、その進展を期待しています。特に、自治体間の連携や情報共有が進むことで、より多くの場所で実践が広がると考えています。教育機関と自治体が協力し、デジタル技術を活用した学びを提供することで、地域全体で雪に対する理解が深まり、より効果的な学習環境が作られると思います。
種谷氏:先生方が日々の授業に追われる中で、雪に関する知識を持つプロフェッショナルから学び、その知識を子どもたちに伝えることが教育者として大切だと思います。これにより、実践的な学びが深まり、子どもたちの理解がより豊かになると考えています。
村上氏:雪に関する学びを効果的に共有することが重要です。札幌の社会科大会や北海道の学習サイトを活用することで、他の先生方に新しい教材や実践を広め、子どもたちが雪について多角的に学び、地域の魅力を再認識できるようにすることが求められます。
朝倉氏:教材化や教材研究の効率化は大切ですが、根本的な目標である「子どもが楽しく学ぶこと」は犠牲にしてはいけません。雪をテーマにすることで、SDGsや総合的な学び、資質能力の育成を一度に進めることができます。また、教育に携わる外部の方々にも協力していただき、社会全体で教育を支えていくことが重要です。
コーディネーター 神林氏:ちょうどタイムリーに札幌市の除雪の方針が発表されたこともあり、「雪」というテーマについてさまざまな視点からの意見が交わされ、非常に充実したディスカッションができたと思います。フロアの皆様からも貴重なご意見や感想をいただき、ありがとうございました。
閉会あいさつ
認定NPO法人ほっかいどう学推進フォーラム 新保 元康
北海道の冬や雪について考えることが、こんなに面白いことだと改めて感じました。北海道の冬は世界一だと思います。スキーや雪の魅力について、外から来た人たちが絶賛するように、北海道の雪は特別です。実際、世界中のスキー愛好者が集まり、雪の良さを認識しています。冬の雪は、ただの寒さや不便さではなく、地域を支え、美味しい食べ物を育み、観光を盛り上げる力があるのです。インバウンドの観光客が増える冬にこそ、私たちは北海道の冬をもっと愛し、誇りに思うべきです。
しかし、私たちの中には「雪が嫌だ」と感じる人もいます。これは北海道の人々の意識の問題であり、このネガティブなイメージを変えることが必要だと感じます。雪学習がその起爆剤になると思います。雪や冬を題材にした教育を進めることで、地域の資源を最大限に活用し、北海道の魅力を次世代に伝えていけるはずです。除雪や雪に関連した技術や知識も誇りを持って発信し、地域社会全体がその重要性を再認識できるようにしていきたいと思います。本日は本当にありがとうございました。
以上