今回も各地から実践報告が寄せられました。上川からは管内初「除雪」を題材とした実践、空知からは「道の未来」を考えさせる新しい「みち学習」、「札幌オリンピック」を題材とした本格的な実践、「炭鉄港」を題材とした中学校の実践、オホーツクからは「景観」を題材とした実践の他、副読本の調査結果が報告され、地道な実践の蓄積と関係者の連携強化の重要性など、活発な意見交換が行われました。
開催報告
道路交通の教材化と防災教育~上川版除雪授業の実践報告~
松浦 達也 氏 [旭川市立近文小学校]
豪雪地帯の上川は除雪の恩恵を大いに受けていますが、そうした営みを学習する機会はなく、ほとんどの子どもが道路の種類さえ知らないのが現状です。そこで、当麻町の小学校4年生社会科「自然災害にそなえるまちづくり」の単元で「上川版除雪授業」に取組みました。役場や旭川開発建設部の皆様にもご協力いただき、身近な町道から道道、国道までビデオ教材等も活用して雪害対策を学びました。GPSを使った除雪技術やボランティアによる「共助」の大切さを学んだ子どもたちは授業後も熱心に質問していました。授業で伝えたかったことは、「災害は身近であり、安心で安全な生活は多くの人々の努力と工夫に支えられている」ということです。「道」を入り口として防災意識を高めるこうした実践が管内全域に広がることを願っています。
「みち学習」の無限の可能性
似内 心悟 氏 [札幌市立太平南小学校]
6年生の「みち学習」の授業づくりが始まった時に「歴史と道の絵」という1枚の絵に出合い、これだ!と思いました。「歴史」に視点を置くと、子どもたちは「時代の特徴」を的確に読み取っていきました。次に視点を「道」に限定すると、材質の違いや無電柱化にまで気付く子どもも。「道ってなんだろう」という発問に対して、「人や車が通るもの」から「暮らしと共に進化・発展してきたもの」へと、1時間の授業の中で変容が見られたのは大きな成果でした。次に「2040年の札幌の道の未来を考えよう!」という資料を参考に、今の札幌の課題を踏まえた「道の未来」を描かせました。道の役割の分担化や環境問題を意識した道など、素晴らしいアイデアが出ました。今年はこれを発展させ「都心アクセス整備計画」を教材とした授業を構想中です。
郷土の魅力を発信する「シーニックバイウェイ」の教材化
~「オホーツクみち学習」の取組から~
大西 篤 氏、東 優甫 氏、渡場 陸 氏 [網走市立東小学校]
網走は資源豊富な地域ですが、子どもたちは身近な「景観」の魅力には気付いていません。そこで、5・6年生の総合学習で「シーニックバイウェイ」を教材化しました。網走市は「認知度は高いが興味度は低い」という実態を資料から読み取らせ、「網走の魅力を発信したい」という探求意欲を引き出しました。「自然」こそが地域の魅力、と気付いた子どもたちに「シーニックバイウェイ北海道」の取組を紹介し、オリジナルのシーニックバイウェイを考案させました。子どもたちが撮影した牛舎や夕陽などの身近な風景はどれも地域の宝であり、外部からも高い評価をいただきました。今回の実践は全道に展開でき、総合学習で育成する資質・能力を網羅しています。実践を通じて、地域に誇りをもち、貢献できる子どもを育成したいと考えています。
魅力ある地域素材との出会い 日本遺産「炭鉄鉱」
実感を伴う深い学びの実現に向けて
鹿糠 昌弘 氏 [美唄市立美唄中学校]
美唄市は自然豊かで魅力的なまちですが、「炭鉱」によって栄えた時代から、エネルギー革命を機に人口減少が進み、子どもたちには「負」のイメージが先行しているのが実状です。そこで、中学生を対象に「炭鉄港」を題材とした実践を進めています。水害とそれを克服し、農業を発展させた歴史、炭鉱労働の一方で、近代化に貢献した歴史といった、多様な視点から過去、現在、未来を考えさせることが狙いです。教科書をベースにしつつ「地域素材」を活用して歴史を「自分ごと」にさせる。炭鉱で歴史的に繋がりの深い鹿児島にも訪問し、子どもたちはもっと学びたいという意欲を見せてくれました。地域素材を多様な側面から学ぶことで、地域に誇りを持ち、主体的に未来のまちづくりを担う子どもに育ってほしいと願っています。
冬季オリンピック札幌大会とまちづくりを関連させた教材の学習効果
佐々木 英明 氏 [札幌市立米里小学校]
オリンピックを題材とした授業実践と学習効果をご紹介します。札幌市では過去にもオリンピックを教材化しており、学習効果が確認されましたが、内容が膨大で難解という課題がありました。そこで、内容を精選し、新たな学習展開を検討しました。単元の冒頭に「戦後、日本はどのように発展し、平和になったのか」という学習問題を立て、校区の道路整備事業を取り上げ、開催当時と現在の様子を学習しました。市の発展を捉える資料などに基づき、公共事業がもたらす効果を実感させることができました。後半には、インフラ整備の価値を確かめながら、根拠を持って公共事業の是非を議論できていました。今回の実践では、教材を道路整備事業に絞り込んだことで、無理なく学習目標に到達できたことに加え、汎用性の高さも確認できました。
みち学習の推進に向けた副読本の調査研究
宮川 愛由 氏 [特定非営利活動法人ほっかいどう学推進フォーラム]
新学習指導要領により社会科と「みち学習」の親和性が強まる一方で、教育現場での社会インフラの扱いは明らかではありませんでした。そこで、オホーツク、上川管内の社会科で使用されている副読本の内容を調査分析しました。その結果、各自治体の副読本の3~4割が「みち学習」関連の記述であり、その割合は新学習指導要領に基づいて改訂された副読本において高いことがわかりました。一方で、内容を見ると、「道路」に関する記述は散見されるものの、多様な役割や地域の重要施策の記述はほとんどないこと、さら関係教員へのヒアリングの結果、副読本の作成をはじめ、「みち学習」を学校現場だけで完結させることは困難であることがわかりました。今後は、インフラ側と教育現場の連携により、実践を蓄積していくことが期待されます。
意見交換
各発表後はNPO法人ほっかいどう学推進フォーラム新保元康理事長の進行のもと、活発な意見交換が行われました。主な発言は下記の通り。
- 教科書には「水害」の記述があり全国一律で学習されているが、今回、上川で副読本にも載っていない「除雪」を初めて取り上げていただき、非常に意義深い。
- 「道の未来」と言うと、大人は予算や環境などの現実を考えてしまう。子どもはどうか。コロナ禍を意識した「手洗い場がたくさんある道」など、子どもなりに現実を捉えている様子が興味深い。小学校の授業で“未来を考える”のは、今回が初めて。もっとこうした授業が増えてほしい。
- 「景観」をキーワードに地域づくり、まちづくりに取組む中で、風景に地域の活気が表れると感じている。それは畑や牛舎といった日常の風景に人々の「営み」が映し出されているからであり、こうした営みを継続させることが「景観」を守ることにつながる。「人に関わらせる」ことを通じて、こうした「循環」を子どもたちにも気づかせたい。
- 「炭鉄港」は貴重な中学校の実践。中学校は高校受験があるため、教科書から離れた学習はしにくいように見えるが、発想の転換で、むしろ学力は向上している。教科書に出てくる「財閥」という言葉も「炭鉄港」を学んだお蔭で子どもたちは身近に感じ、探求意欲が向上した。
- 地域学習は外部調整はじめ担当教員に負担がかかるが、「人とつながる」ことの重要性を教師自ら示すことができる。3年かけて美唄の「炭鉄港」の授業パッケージができたので、これから空知版を作りたいと考えている。
- オリンピックを題材とした本格的な実践。一方で、総合の時間を使わずに、プラス1、2時間で完結させている。小学校の授業は情報交換がしにくいのが現状だが、今回のような実践は非常に参考になる。学び合いながら新しいものを創っていくことが重要。
- 副読本のヒアリングにあるとおり、地区によっては副読本の精度がまちまち。インフラの重要性をもっと子どもたちに伝えていきたいが、現場教員のボランティアだけでは限界がある。NPOほっかいどう学など協力機関と連携していくことが大事。
- 素晴らしい実践の数々。少数の精鋭による実践で終わらないために、校内で持続させるように記録を残している。また、昨今の教員研修では、各教科で何を教えるかではなく、育成したい「資質」・「能力」に重点を置いて授業展開を考えるよう指導を強化している。こうした研修が活かされ、実践が広がっていくことを期待している。
- 札幌市内の全小学校で「除雪」が学習されるようになって10年以上になる。それまではゼロだった。指導計画に新たな題材を入れ込むのは非常に困難だが、地道な取組みが継続の鍵。また、良い教材づくりには、教員の前向きな姿勢と行政、民間との連携が大切だと感じる。
- 特別セッション「ほっかいどう学」が設置されて今回で3回目となる。18編ほどの実践が蓄積されており、今後もネットワークが広がっていくことを期待したい。道のりは長いが、誰かが始め、繋いでいかねばならいない。
出典:dec Monthly 2022.1.1 vol.436(一般社団法人 北海道開発技術センター)