レプリカとは?
雪を降らせる雲はどうしてできるか?
雲の中で雪はどのようにしてできるか?
雲の中での雪や霰はどのようにして大きくなりますか?
雪の結晶にはどんな種類があるの?
雪の結晶に書かれた暗号を読む
結露とは何か
氷点下の温度に耐える植物の不思議
雪を教材として利用いただく先生に
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○レプリカとは?
 レプリカとは複製の意で、降ってきた雪をスライドガラスの上に受け、プラスチックで被って、その表面構造をかたどったものです。雪は蒸発し、ちょうど蝉の抜け殻のようになっています。常温で観察することができ、雪の形を半永久的に保存することができます。図はレプリカができるまでを模式的に示しています。溶剤が蒸発した後、雪がプラスチック膜を通して蒸発し、膜だけが残ります。
 この方法はアメリカのSchaeferによって50年余前に開発されました。プラスチックとしてはポリビニールホルマ−ル(商標ホルムバール)が使われ、ホルムバール法とも呼ばれてきました。しかし、ポリビニールホルマ−ルには不純物としてポリビニールアルコールが含まれており、僅かな水で白濁を生じるなどの欠点があります。これに代えて、高橋庸哉・福田矩彦はアクリルがより適した材料であることを見いだしました。尚、溶剤は水溶性でないことが重要であり、マニキュア除光液などに使われているアセトンなどは適しません。
雪のレプリカができ上がるまで
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○雪を降らせる雲はどうしてできるか?
 大気中には水蒸気が含まれていますが、単位体積の空間に最大存在しうる水蒸気量(‘飽和水蒸気量’という)は温度に依っており、低温になるほど少なくなります。たとえば、空間1立方メートルあたり30℃で30g、0℃で5gほどです。水蒸気を含む空気を冷やしていくと水蒸気が余り、余った部分が液体の水に変わります。これは日常的に極ありふれた現象で、冷たいビールやジュース缶の回りが露で濡れていることを思い出して下さい。大気中では余った水蒸気は小さな水滴に変わります。この水滴の集合体が‘雲’で、それを構成する水滴を‘雲粒(うんりゅう)’と言います。雲が白っぽく見えるのは水滴が光を反射するためです。雲粒は雲の種類や雲のできた所などによっても違いますが、直径0.005〜0.1mmで、0.02mm程度の大きさのものが多い。雲粒の濃度は空気1立方センチメートルあたり数10〜数100個で、空気中に疎らにしか存在していません。雲粒をビ−玉の大きさにたとえると10m四方の空間に同じ数のビ−玉が浮いているに等しい。雲粒を全部集めても空気1立方メートルにつき、多くて数グラム程度しかなりません。しかし、一つの雲全体で合計すると100m程度の小さな雲でも1トン前後の水が存在します。
 雲ができる所には上昇気流が存在し、その大きさは毎秒数センチから時には10メ−トルを超すことがあります。上空に行くにしたがって気圧が低くなりますので、上昇した空気塊は膨張します。回りから熱が加えられなければ、空気が膨張するとその温度が下がる性質があります(この反対に空気を収縮させると温度が上昇します。自転車の空気入れが熱くなるのを思い出してください)。すなわち、上昇した空気塊は膨張/冷却し、余った水蒸気が雲を作ります。
 上昇気流ができるのには幾つかの原因があります。たとえば、山の斜面に風が当たると強制的に空気塊の上昇が起きます。冬季に北西季節風によって雪雲がもたらされるのは日本海を対馬暖流が流れているためです。真冬でも対馬暖流が流れている所の海面水温は+5〜10℃もあります。寒冷で乾燥したシベリア気団からの空気は日本海で熱と水蒸気をもらい、下層の暖まった空気は軽くなって上昇し、雲を作ります。対馬暖流がなければ、雪は少なく、乾燥するでしょう。日本列島が大陸と陸続きとなった約2万年前の最終氷期にはそのようであったと考えられています。
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○雲の中で雪はどのようにしてできるか?
 水を冷蔵庫の中で冷やしていくと氷ができるというイメ−ジが強いので、雨が凍って雪ができると思っている子どもが意外に多いようです。
 雲粒が0℃以下に冷却されると、凍ってしまうかと言うと事はそう単純ではありません。天然の雲を観測してみると、氷の粒子を含まず、液体のままの雲粒だけからなる雲の割合は−5℃で80%、−10℃で50%もあり、−20℃になっても10%程度の雲は氷の粒子を含まない液体の雲です。純粋な水では−40℃位まで液体のままで存在することが実験から知られています。0℃以下になっても水が凍らない現象を‘過冷却’と言います。水が0℃以下で凍らないのは不思議かもしれませんが、水が凍る温度である‘氷点’は1気圧の下で「水と氷が熱平衡」にある温度です。水と氷が一緒にあると水は0℃で凍り始めますが、水だけでは0℃以下になり得るわけです。
 しかし、過冷却は不安定な状態で、わずかなことで瞬間的に凍結が起きます。凍結させる働きを有する核が存在する場合などです。池や湖が結氷する時には過冷却をほとんど 起きません。多量の水の中には、この核が必ず存在し、そこから氷が成長するからです。雲粒の場合にも粘土の一種であるカオリンなどからできた核の働きによって凍結が起きます。これらは低温になるほど有効に働きます。凍結した雲粒は多面体を経て、瞬間的に六角柱に変わります。これが、雪の〈赤ん坊〉で、‘氷晶’と呼ばれています。発生する氷晶の数は特に多い場合でも空気1立方センチメートル当たり0.1個ほどで、雲粒がすべて凍結するわけではありません。雲粒の中に氷晶が点在しているといった感じです。
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○雲の中での雪や霰はどのようにして大きくなりますか?
 雪には一つ一つの結晶が単独に降ってくる場合(‘雪の結晶’)とくっつき合って降ってくる場合があります(‘雪片’)。また、固体で降ってくる仲間には‘霰(あられ)’があります。雪の結晶や雪片、霰は以下のように成長します。
  • 雪の結晶
    水に対してと氷に対しての飽和水蒸気量は同じ温度でも違っています。氷に対しての方が水に対してより少ない。過冷却水よりも氷の表面の方が水分子が規則正しく並び、強く結合しており、水分子が離れにくいからです。通常、雲の中では水に対して水蒸気がほぼ飽和していると考えられますから、氷に対しては水蒸気が余っています。たとえば、−15℃では氷に対する飽和水蒸気量の15%相当も余分となります。したがって、余った水蒸気は氷晶面にどんどん取り込まれます。その分だけ空気が乾いて、水に対して未飽和になりますが、氷晶を取り巻いている雲粒が蒸発し、水蒸気を絶えず補給します。この過程を繰り返して、雪の結晶は成長していきます。つまり、雲粒の中に点在していた氷晶は雲粒から水蒸気を奪って、大きくなります。
  • 雪片
    雪の結晶は一つ一つ単独で降ってくる場合もありますが、くっつき合って降ってくることも多い。これが‘雪片’で、大きなものは一般には‘ぼたん雪’と呼ばれています。雪片は雪の結晶同士の併合によって大きくなったものです。一つの雪片を構成する結晶の数は多い時には数百にもなり、直径が10cmに達することもあります。気温が高い時にできやすいのですが、雪片が形成されるメカニズムはまだ良くわかっていません。
  • 雲粒付雪結晶・霰
    雲粒濃度の高い雲では、雪の結晶に雲粒が付着して凍りつき、‘雲粒付雪結晶’となります。雲粒が付くと落下速度が増し、さらに雲粒が捕捉されやすくなります。ついには雪の結晶形がわからなくなり、‘霰’となります。付着する前の雲粒は液体ですが、温度が低いと付着した雲粒は直ちに凍ります。しかし、0℃よりやや低い程度で凍ったり、一度融解して凍結した場合には水が氷表面に薄く広がって凍ります。前者を雪霰、後者を氷霰と区別されています。前者は白色の氷の粒で、球形または円錐形で、後者は透明、または半透明の氷の粒です。北海道では雪霰の方が圧倒的に多い。高橋庸哉・福田矩彦はシリコ−ンオイル中に受けた雪霰を顕微鏡下で注意深くほぐし、雪霰のエンブリオ(胚芽)となっているものを調べました。雪結晶の他に凍結水滴、雪が融解・再凍結した氷粒子、雪結晶の破片などが見いだされました。しかし、それらが見いだされず、雲粒だけからなっている場合が多いこともわかりました。雲粒付雪結晶の雲粒の部分がちぎれたり、雪霰が分裂したりしたものがエンブリオとなるためと考えられます。
    氷霰が5mmより大きくなったものを‘雹(ひょう)’と呼びます。雹の落下速度は直径5mmで10m/秒、5cmで30m/秒以上にも達し、積乱雲の中での強い上昇気流に支えられて成長します。アメリカでは直径約45cm、重さ750g以上のものが観測されたことがあるそうです。北海道では秋に日本海側の地方で時々観測されますが、これは上空に強い寒気を伴う寒冷前線が通過する時、強い上昇気流を伴った積乱雲が発生するためです。しかし、その頻度は多い所でも年数回です。
 気温は上空ほど低いので、夏でも地上数kmより上では気温は氷点下です。ここでは雪が生成されており、地上に落ちてくる間に融けて雨になります。完全に融け切らないで降ってくるのが‘霙(みぞれ)’です。雨には多くの雲粒が併合してできる場合もありますが、中緯度で降る雨のほとんどは雪が融解したものです。雨ができる0℃より高温の大気層の下に氷点下の大気層(逆転層)が存在すると、雨は凍結します。‘凍雨’と呼ばれていますが、日本では稀です。
雪結晶(角板)
凍結水滴
氷粒子
雪結晶の破片
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○雪の結晶にはどんな種類があるの?
 雪の結晶は別名‘六花’と呼ばれているように、六角形をしていますが、その形状は千差万別です。次の種類に分類されます(孫野・李による)。樹枝・針・鼓などの名称は形の類似性から付けられた名前です。
  • 針状結晶(針・さやなど)
  • 角柱状結晶(角柱・砲弾・砲弾集合など)
  • 板状結晶(角板・扇形・樹枝・立体樹枝・放射樹枝など)
  • 角柱・板状組み合わせ(鼓型など)
  • 側面結晶
  • 雲粒付結晶(雲粒付き角板・雲粒付六花・霰状雪・霰など)
  • 不定形(氷粒・結晶破片など)
  • 初期氷晶(小角柱・小角板・小六花など)
 雪の結晶は六角柱を基本とした結晶構造を持つ六方晶系と呼ばれる結晶の仲間です。それを反映して六角形になると考えられていますが、まだ良くわかっていません。
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○雪の結晶に書かれた暗号を読む
 北海道大学の中谷宇吉郎教授らは、今から60年余り前に、雪結晶を実験室内で初めて再現しました。この先駆的研究は雪の結晶をうさぎの毛の上に成長させたものでした。
 中谷以来の研究で次のことが明らかにされました。雪の結晶の形は主に温度に依っており、温度が下げていくと角板と角柱が交互に現れます。針は−5℃付近、樹枝は−12℃〜−16℃で成長します。また、同じ温度でも水蒸気量が多いほど複雑な形になります。

  −4℃ 角板状
  −8℃ 角柱状
−4℃ −22℃ 角板状
−8℃ −22℃ 角柱状

色々な温度での雪結晶誕生からの落下距離
上部に成長時間に対する針・樹枝状雪結晶の大きさを示す。高橋・遠藤・若濱・福田のデータによる。
 このことから、雪の結晶を観察するとそれが成長した雲の中の成長条件(気温と湿度)がわかります。中谷先生はその著「雪」の中で次のように述べています:「雪の結晶は、天から送られた手紙であるということができる。そして、その中の文句は結晶の形及び模様という暗号で書かれている」。
 暗号を読み努力は現在も続けられています。雪結晶を空中の一点に浮遊させながら成長させることができる風洞で得られた結果の一つを紹介します。うさぎの毛などを使わず、天然の雲の中で雪結晶の成長を再現したものです。すなわち、自然の雲の中で一個の雪結晶を追跡しながら、それが成長し落下していく様子を気球に乗って観察したことに相当します。図は雲の中で雪結晶が誕生してからの落下距離を示したものです。針・樹枝では15分間に約100m、30分間に約300m落下します。30分かけて、針は2mm、樹枝は4mmまでに成長し、その間に雲の中を約300m落下していることがわかります。観察した雪の結晶から成長に要した時間や雲中の落下距離も分かるようになりました。
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○ 結露とは何か
 空気中の水蒸気が物体の表面に凝縮して、水滴ができること。単位体積の空間に最大存在しうる水蒸気量は温度が低いほど小さくなるので、余った水蒸気は水滴に変わります(「雪を降らせる雲はどうしてできるか?」参照)。
 例えば,朝になるとガラス窓の下の方に水滴がたくさんつくのが結露です。気密性が高く、しかも場所によって温度の差が大きい家は、結露しやすい。部屋の中にかびが生えたり、内装をいためることにつながる。
 断熱工事の不良で、壁の中で結露がおこることもある。防湿材を断熱材の外側につけてしまったり、断熱材と外壁の間に通気層をもうけないなどが原因。壁の中で結露すると(内部結露という)、柱や土台が腐って、家そのものがだめになってしまうこともあります。

冷たい水の入ったコップの表面への結露

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○氷点下の温度に耐える植物の不思議
 植物が氷点下の温度によって死に至るのは、細胞内の水の凍結とそれに伴う体積の増加が細胞を物理的に壊すためです。氷点下にまで周りの温度が低下する環境で生育している植物は、細胞内の水が凍結しない仕組みや凍結してもそれに耐えられるような仕組みを持っています。ここで、その仕組みを紹介しましょう。

氷点下の温度に対する抵抗性は、次の3つに分けることができます;
1) 凍結耐性を獲得していない植物は、0℃以下に冷え込まない地中、水中などの生育地を選んで氷点下の温度を避ける。
2) 過冷却や乾燥に耐える能力を獲得して、凍結を回避して氷点下までの温度に生きる。
3) 凍結に耐える能力を獲得し、凍った状態で氷点下の温度に耐える。

 上に挙げた3項目のうち、1と2は凍結回避、3は凍結耐性とまとめられています。

【凍結回避】
 最初は、凍結するもの、つまり水そのものを細胞中から排除する方法です。
 植物細胞中の約19%の水は細胞を作る有機物中に束縛されています(化学的に結合している)。この水は、液体窒素中に入れても凍結することはありません。高山や極地などのような厳しい寒さで生育する植物は、細胞中の水分が10%以下になるまで脱水されても生育可能です。
 もう一つの凍結回避は『過冷却』という現象です。この現象は、水や水溶液がそれらの氷点(凝固点)以下の温度に冷やされても凍っていない状態で、純粋の場合には約-41℃、生物の場合には-45℃まで過冷却が可能といわれています。
 植物体全体が-20〜-40℃の温度で長時間安定して過冷却をたもつことはまれですが、体の一部(組織や器官)のみが、-20℃以下まで過冷却で過ごすことが多くの植物で知られています。(「雲の中で雪はどのようにしてできるのか?」参照)

【凍結耐性】
 次は細胞中の水は凍結するが、細胞は壊れないという仕組みです。これには、『細胞外凍結』と『器官外凍結』という2つの現象があります。細胞外凍結は、植物がゆっくりと冷却される時、氷は細胞壁に接してその外側の細胞間隙にできます。図に見るように、細胞内の水は蒸発(細胞からみると脱水されている)するが、凍結することはありません。暖められる時には、細胞間隙の氷が融けて再び細胞内に水が供給されます。
細胞内の水蒸気圧>氷の表面の水蒸気圧
細胞内の水は蒸発し、細胞間隙にできた氷は成長する


もう一つの『器官外凍結』は、種子や花芽で見られます。種子を包む皮(種皮)と胚乳の間に氷ができる。花の芽の中の隙間に氷ができる場合などがあります。
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○雪を教材として利用いただく先生に
  • 雪の形を書いてもらうと四角形・五角形・八角形を描く子どもが多い。日頃からの観察を心掛けたいものです。スキ−学習や外遊びの時にアノラックや手袋の上に載った雪を観察することから始めましょう。
  • 降ってくる雪の形状は気象条件の微妙な違いにより千差万別です。1回の授業にとどめるのではなく、冬休みの自由研究などと結び付けたい。
  • 顕微鏡の倍率が高すぎたり、低温下ではノブが固くなったりの問題がありますので、雪を初めて観察する場合には、顕微鏡を使わない方が良いかもしれません。
  • 授業時に降雪がない場合には、予め製作したレプリカを顕微鏡で観察します。これだけでも子どもたちの眼は驚きでいきいきとしてきます。また、「雪の結晶を作る実験」を利用するのも良いでしょう。
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