06年8月雪プロ小学校教員研修セミナー
「ここから始まる雪の実践」基調提言まとめ
『雪たんけん館』を活用する8の視点

岩手県奥州市立水沢小学校
教 諭  佐 藤 正 寿


1 「雪たんけん館」の活用の視点を考える意味

 とある研究会で次のような発言にハッとした。
 聞き手が知りたいのは、その実践者の教材作りの方法だ。どうしたら、あんな教材が作れるのか。いわば教材作りの原理原則。
 確かにそうだ。教材そのものを手に入れても、使ったら1回限りで終わりだ。
 しかし、「原理原則」を知ると教材開発に応用できる。この「応用」が実践を広めていくために重要なのは言うまでもないであろう。
 そう考えて、今回『雪たんけん館』の活用の原理原則を、キーワードをもとに8の視点でまとめてみた。


2 活用のための8の視点

(1)「一枚の写真」は発問がポイント
 昨年の「雪たんけん館」から増えている中で注目しているのは「写真冬ズバッ」である。
 価値のある写真が多い。教師が見ても「これはどうなんだ」とゆさぶられる。さらに、1枚の写真だから子どもたちに簡単に提示できる。
 今までも「教材用写真集」があった。今回の「写真冬ズバッ」はそれに問題と説明が入った。これで写真の価値は十倍以上になった。
 さっそく「道産子 冬を生きる知恵」を使ってみる。
 写真を見て、Q1にある「朝、昼、夕のいつでしょう」と問う。「選択させる言葉」で発問をしているので、子どもたちは「朝派」と「昼派」に分かれて活発な話し合いができた。
 価値ある写真に考えを深める発問があれば、1枚の資料で価値ある授業ができる。
 
(2)「Web百科事典」の調べ方を教える
 「雪たんけん館」はまさに雪のWeb百科事典である。
 「雪の結晶」「雪の中の生き物」「雪崩」「雪との暮らし」「除雪」等、雪に関わる情報が本当にぎっしりと詰まっている。
 ところが、子どもたちに授業で活用させるとサイトを指定しないと、目的の情報が見つけられない子がいる。通常の百科事典を調べる時の基本的な指導に、「目次・さくいんの使い方」がある。これはWeb百科事典も同様である。
 6年生の子どもたちに「サイトマップ」を紹介し、簡単に指導した(全体を説明)。自由にHPを見させた時に、ここをクリックした子は皆無であった。「1回見つけたサイトをもう一度探す時に便利だった」という感想を持った子がいた。「インターネットを使った調べ学習の一つの方法を教えることができるサイト」と言える。
 (雪たんけん館内での検索機能がついていると、もっと使いやすくなるだろう。)
 
(3)どのコンテンツがどんな時に効果的か考える
 「雪たんけん館」は授業で使えるコンテンツが多くある。大事なのは、それらのコンテンツが授業のどの場面が効果的に活用できるか考えることである。
 「一枚の写真」にしてもいろいろな場面での使い方が考えられる。
「除雪の工夫」でクレーン車のアームで川に捨てた雪をとかしている写真がある。この写真だけでも様々な使い方が考えられる。
・導入に持ってきて除雪に対する興味づけを図る
・写真を中心資料として最初から最後まで使う
・授業の途中で子どもたちをゆさぶる資料として使う
・まとめに簡単な紹介程度に使う
むろん授業者の意図によってその活用方法は異なってくる。コンテンツの中身と共に考えていきたい部分である。
 
(4)コンテンツの見方を鍛える
 雪たんけん館には多くの写真・絵のコンテンツがある。それらを子どもたちに検討させるには
コツがある。基本的には教科学習での写真や絵の見方と同様である。
 一つのコンテンツをじっくりと検討する場合には次のような次のような手立てをとる。
・資料を見て、気付いたこと、思ったことを自由発表(情報を出させ交流→さらに情報を蓄積)
 →この時に子どもたちなりの解釈を加えさせる。
・基本的な補助発問で資料の見方を絞っていく。(情報の絞り込み)
・中心発問で深い話合い活動をする。(情報の本格検討)
 いきなり資料を使って本格的な検討をしても、基本的な情報がなければ話し合い活動は成り立たない。デジタルコンテンツ活用でもこれは同様である。
 
(5)「学び方のモデル」を生かす
 「雪を楽しもう」というサイトがある。ここには、雪に関するアンケート調査が掲載されている。これを読むと具体的なアンケート調査の方法、まとめ方、表現の仕方がわかる。調査結果のサイトなのだが、「学び方のモデル」にもなっている。そのまま、総合的な学習の時間にも活用できる。
 私の学級でも昨年度実際に次のように1時間の授業を行った。
  1. 課題「冬のくらしを調べ,北海道の子どもたちと比べよう」
  2. サイトと同じアンケートを学級でとる。ただし,話し合いで3つに絞る。「冬が好きかな?」「どのくらい外で遊ぶ?」「休み時間は中?外?どこで遊ぶ?」
  3. アンケートを分担して集計をして,簡単な表やグラフに表す。
  4. その結果を北海道の子どもたちの結果を比べる。
  5. 感想を発表する。
 モデルがあると結果を比較・考察できる。この比較・考察が子どもたちにとっては重要な学習となる。資料の見方・考え方を深化させるからである。
 他にも「雪を観察しよう」には「雪穴を掘って、断面を見てみよう」「雪の中の温度を調べてみよう」といった観察方法が具体的な準備物と共に示されている。
 
(6)利雪・活雪の視点を取り入れる
 「雪の結晶博士中谷宇吉郎〜雪の結晶観察へ」という実践(割石実践)が「雪の研究室」に掲載されている。このような先人の取り組みをどんどん教材化していきたいと考える。雪を「天からの手紙」と言った中谷氏に共感する人も多いであろう。
 また、現在行われている「利雪・活雪」の視点をどんどん組み入れたい。雪国の人々の知恵が結集された例である。
 昨年度の雪プロの研修会前に赤井川村の雪氷室貯蔵施設(HIMUROS)を見学した。お話を聞いてすぐに教材化したいと考えた。利雪という考え方・自然エネルギーのすばらしさ・人々の知恵に共感したからだ。
 おそらく、多数の利雪・活雪の例が各地にあると思われる。新たな教材開発として教材化していくべきと考える。(先の実践について原稿化する機会があった。資料1参照)
 
(7)バーチャル体験をリアル体験に結びつける
 IT活用のよさの一つとして、「バーチャルな体験ができる」ということがあげられる。
 「雪と暮らそう」の中に「むかしのお話を聞こう」というサイトがある。これは実際にお年寄りに取材したものを音声や写真付きで再現したものである。いわば「バーチャルゲストティーチャー」である。
 雪国以外の子どもたちにとって、このようなゲストティーチャーを探すのは大変である。バーチャル体験として「むかしの話を聞ける」という点では貴重である。しかも一人だけではなく、数多くの「ゲストティーチャー」がいる。
 むろん、あくまでも体験の代行である。その点では、バーチャルだけに終わらず「リアル」につなげることが大切だと思われる。たとえば、実際にインタビューをすることを前提とする。そして、「話を参考にして、実際にインタビューをするための話題を考える」「インタビューをした後に、インタビュー内容を比較するために活用する」といったことが考えられる。
 また、単元の導入としてお話を聞かせ、くらしの視点を考えさせたり、興味づけとして活用したりすることができる。
 ※このサイトを調べさせた時、子どもたちは昔の人々の生活に大変興味を持った(雪が降る地域にもかかわらず!)。ましてや雪の降らない地域では百科事典にはない貴重なサイトと言える。
 
(8)クイズ・ゲーム性を生かす
 ゲームやクイズは子どもたちが大好きな学習活動である。同じ学習問題でも、「豊臣秀吉は何をした人でしょうか?」と問うよりも、「『戦国時代』『検地』『刀狩』・・・これらに関係のある人物は?」とスリーヒントクイズにする方が盛り上がる。
 さらに画像を付け加えたらどうだろうか。教科書にある検地の絵や秀吉の肖像画を画像で示す。画像を示した時点で「あっ、わかった!」という反応が出てきたり、「はい!」と挙手したりするであろう。しかも、「検地の絵」と「検地という言葉」と「秀吉の施策」が視覚的に結び付く。きちんとした学習効果があるわけである。
 雪たんけん館には「雪のことなんでもクイズ」がある。また、「LET’S TRY!」にもゲームがある。「写真冬ズバッ」も三択クイズのものがある。これらを活用しない手はない。(「雪のこと何でもクイズ」には説明や答えに関連するリンク先があると、学習としてより効果的な活用できる。)
ただし、授業での活用で注意しなければいけないのは、それらが子どもたちにどのような力をつけるかという点だ。ただ楽しいだけではなく、「理解度を増す」「思考力をつける」といった要素が必要だ。
 

3 まとめと期待

  1. 幅広い内容のデジタルコンテンツと改めて感じた
    原理原則という視点で見ていくと、「雪たんけん館」は改めて充実した内容のデジタルコンテン
    ツであることがわかる。「学び方のモデル提示」「興味・関心を高める」「思考を促す教材」「知識を補うもの」等の要素が幅広く入っている。
  2. 多様な学習に対応できる
    多様な要素を持つことは,総合のテーマ追究学習,社会の課題解決型の一斉学習,画像の部分
    活用等,多様な学習形態に対応できるということである。もちろん,子どもたちの自主学習,家庭学習としても活用できる。
  3. 「使い方」の充実を期待
    しかし、コンテンツが充実していても、使う側に力量がなければ、教師にとっても子どもにと
    っても価値が下がってしまう。教材用写真の解説や発問の挿入がされて活用されやすくなったのと同様に、使い方まで考えたサイトの充実が待たれる。(例「追試しやすい1時間プランの提示」)
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